研究課題/領域番号 |
19K06322
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
柳橋 秀幸 金沢工業大学, 工学部, 講師 (10553208)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁性流体 / 成長阻害 / 磁気検出 / 磁性付与 / ヘルムホルツコイル / 揺動装置 |
研究実績の概要 |
磁性流体を用いて植物の生体情報(生体生理活性)を非接触で計測する新規手法の確立を目指し,初年度は主として,各種磁性流体が植物に及ぼす影響(成長阻害)の定量評価ならびに磁気計測系の検出感度向上に取り組んだ。以上の取り組みによって得られた成果の概要を以下に示す。 磁性流体については,水を溶媒とした低濃度溶液(5%未満)であればカイワレダイコン種子の発芽に影響を及ぼさず,発芽後も枯死に至らせることなく持続的に成長することを確認するとともに,アニオン系よりもカチオン系の分散剤(界面活性剤)で成長阻害効果がやや大きくなることを明らかにし,以降の研究に用いる溶液の選定に至った。また,磁性流体中の鉄粒子から植物が受ける影響の低減化を目指し,鉄粒子を多糖類(デキストラン)で被膜した磁性流体溶液を準備してカイワレダイコンに供したところ,既選定の溶液と比較して成長阻害の程度が大きい結果となった。これは多糖類被膜を溶液中で維持するための溶媒とその水素イオン指数が影響していると考えられ,次年度は,多糖類被膜を消失させない範囲でこれらの改善に取り組む予定である。 磁気検出系については,感度向上のための大型ヘルムホルツコイツの設計・製作を終え,従来と比較して約6倍の感度向上を達成した。水切によって茎部から磁性流体溶液を吸収させたクワズイモの葉部を乾燥させて破砕し,これをガラス瓶に詰めた試料をこの磁気検出系にて前後に揺動したところ,揺動に同期した磁気変動を検出することに成功し,我々の調査の限りでは,植物葉部に磁性流体を到達させて磁性を付与できることを世界で初めて確認するに至った。なお,磁気検出系の感度向上を達成した結果,試料揺動時のわずかな振動も雑音として拾う結果となり,振動を低減するための,非磁性体で構成される特殊な試料揺動装置を設計した。現在業者に依頼して製作中であり,納品され次第,評価試験を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の要所は3点あり,①供試植物体内への吸収に適する磁性流体の選定とさらなる調製,②磁気検出感度の向上,③外部刺激に対する供試植物由来の磁気変動の検出である。このうち,当該年度(初年度)は①と②に主として取り組む計画であった。以下に各項目の進捗状況を記し,全体としての進捗状況を評価する。 ①については,「研究実績の概要」に記した通り,研究に供する磁性流体溶液の選定を終えており,この溶液を用いて安定的に以降の実験に取り組めている。ただし,磁気検出系における信号雑音比を改善するため,供試植物には可能な限り多くの磁性流体(中の鉄粒子)を吸収させることが好ましい。この観点から「研究実績の概要」に記した多糖類被膜の溶液を確立することが望ましく,次年度以降に課題が残った状況であると評価できる。 ②については,「研究実績の概要」に記した通り,新規大型ヘルムホルツコイルの導入によって磁気検出系の大幅な感度向上に成功しており,計画通りである。揺動装置についても当該年度中に導入する予定であったが,非磁性体のみで装置を構成する技術的課題の解決に時間を要したため計画に遅れはあるものの,しばらくは磁気検出系を利用しない実験に移るため,今後の研究の進行に影響はない。揺動装置は間もなく納品される見込みで,②については順調な進展と評価できる。 ③については,次年度(二年目)から始動する計画であったが,一部実験や準備を前倒しで初年度中に開始している。研究の最終段階では,磁性供試植物に光刺激を与えた際の磁気変動を検出するが,この磁気変動と生体生理活性との相関性の評価が必要になる。その比較データとして,磁性供試植物に光刺激を与えた際の生体電位応答を既に計測し始めている。また,実験系の構築も既に進めている。 以上の①~③の進捗状況から,研究全体としては,おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の要所は3点あり,①供試植物体内への吸収に適する磁性流体の選定とさらなる調製,②磁気検出感度の向上,③外部刺激に対する供試植物由来の磁気変動の検出である。以下に各項目の推進方策を記す。 ①については,「研究実績の概要」に記した通り,研究に供する磁性流体溶液の選定を終えた一方,鉄粒子への多糖類皮膜の観点では課題が残る。溶液の溶媒ならびに水素イオン指数を検討し,供試植物に適した溶液の調製を試みる。また,メーカーが新規開発品した未販売の磁性流体が本研究に適している可能性が予備実験結果から示唆されており,メーカーと交渉して追加入手を試み,さらなる定量評価を目指す予定である。 ②については,「研究実績の概要」に記した通り,磁気検出系の感度向上に成功し,雑音低減のための揺動装置も導入間近である。磁気検出系に関してはほぼ最終形態にあり,系各部の点検による雑音低減ならびに揺動装置の操作習熟に務める予定である。 ③については,「現在までの進捗状況」に記した通り,当面は磁性供試植物に光刺激を与えた際の生体電位データを継続して取得するとともに,磁性流体吸収の有無による生体電位応答の差異の有無を確認する予定である。また,最終実験の実験系を構築するとともに,実験操作の習熟に務める予定である。最終実験では供試植物に光刺激を与えるが,磁気シールドルーム内部に光源を置いた場合,光源のオンオフによって磁場が変動して雑音となるため,外部から十分な光量を内部に送る仕組みを念入りに構築する予定である。なお,最終実験に関しては当初の計画よりもさらに踏み込むことを検討している。現在使用しているものとは異なるタイプの高性能磁気センサの提供をメーカーから受けられる見込みであり,植物内部における生体生理活性に伴う生体情報の流れ(移動経路)を非接触で可視化する画期的な技術を模索する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では,当該年度(初年度)中に揺動装置を購入する予定であったが,「現在までの進捗状況」欄で述べたように,非磁性体のみで装置を構成する技術的課題の解決に時間を要し,設計段階にて遅れが生じたことで次年度使用額が生じた。設計図面は当該年度末に完成し,次年度冒頭に既に業者へ製造発注済みである。なお,当該装置については,非磁性体のみでの割高な部品構成によって当初想定額から増額されており,今回生じた次年度使用額は翌年度分として請求した助成金と合わせて既に使用した。
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