磁性流体を用いて植物の生体情報(生体生理活性)を非接触で計測する新規手法の確立を目指し,三年目にあたる最終年度は,磁性植物(磁性流体を吸収させた供試植物)に光刺激を提示した際の磁気応答の検出に取り組んだ。取り組みによって得られた成果の概要を以下に示す。 当該実験では,磁気シールド内で磁気変動を生じさせることなく,磁気シールド内に設置した磁性植物に光刺激を提示する必要があり,磁気シールド外で発生させた強力な赤色光を光ファイバを経由で30分間隔で供試体に照射する実験系をまず構築した。また,光照射を受ける磁性植物葉面が磁気センサ直近に位置するよう,専用の固定治具を自作した。 実験の結果,一回あたり約48時間の計測において,バックグラウンドの磁気雑音が大きく磁気信号が埋もれる時間帯,光刺激に対して磁性植物が磁気応答を示さない時間帯も見受けられたが,複数の時間帯および実験回にて,光刺激に対する磁性植物由来の明確な磁気応答を捉えることに成功した。我々の調査の限りでは,世界で初めての実施例ならびに観測結果である。 これは,供試体内に磁性流体を吸収させることで,生体生理活性に関係する体内の溶液輸送に乗じて磁性流体が移動し,この際に極微弱な磁気変動が生じたと見込まれた。生体電位はこの生体生理活性と密接な関係にあり,磁気を介した生体生理活性の非接触計測すなわち間接的な生体電位計測の非接触計測が可能であると結論した。 今回,磁性流体を用いて光の明滅に対する植物の生体生理活性を非接触で計測することに成功したことで,計測電極を用いない軽負荷での長時間の生体情報計測の確立に道筋を得た。また,当該手法は複数の磁気センサ併用によって供試植物やヒト体内での代謝の安価なリアルタイムイメージングに応用可能であり,本研究を通じて極めて重要な知見を得ることができたと評価できる。
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