研究課題/領域番号 |
19K06324
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
角谷 晃司 近畿大学, 薬学総合研究所, 教授 (10257983)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | サフラン / 柱頭様組織 / 雌蕊組織 / 組織培養 / クロシン |
研究実績の概要 |
サフランは「番紅花」とも呼ばれ、主に婦人病治療を目的として生薬製剤に配剤される他、食品や香辛料として世界一高価な薬用植物として取り扱われている。生薬や食品に使用される部位は、開花直後の柱頭組織であり、1つの花あたり3本の柱頭組織しか形成しないため、100 gの柱頭組織を得るためには約16000個の球根が必要となる。サフラン生産を増大させるためには、広大な栽培面積と収穫のための多大な労力が必要で、現状、現実的ではない。我々は、柱頭組織の収穫後、大量に廃棄される花茎組織を用い、植物培養技術によって、柱頭様組織が分化形成できる培養条件を見出した。この技術を用い、柱頭様組織の大量増殖への応用が期待できる。しかし、柱頭様組織の分化形成には、分化誘導をコントロールする植物ホルモンと培養温度、さらに、花茎組織中の分化に適した部位の特定化が必要である。一方、サフランの生育サイクルは、4月から9月頃が休眠期、9月中旬より萌芽、11月より出蕾、開花期となり、落花後、葉の繁茂による球根の肥大化の成長期、さらに2月から3月頃小球が分球する繁殖期である。サフランは限られた期間(2週間)に一斉に開花するため、柱頭組織の採取には多大な労力がかかり、生産者にとって最も大きな問題とされている。このような問題を克服し、柱頭組織を年間を通して安定に生産するためには、花茎組織を用いた柱頭組織誘導培養システムを確立する必要である。そこで、本研究では、サフラン柱頭様組織の大量増殖法の開発を目的とし、令和元年度の研究目標として、柱頭様組織分化に適した培養条件の確立を試みた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の研究計画として、サフラン花茎組織から柱頭様組織の誘導試験を試みた。まず、柱頭様組織誘導の植物ホルモンの影響を調査するため、室内でサフランを栽培し、開花後の花茎組織を採取し、滅菌後、5 mmの長さに分割し、0.3% gellan gumと6% sucroseおよび植物ホルモンを含む1/2濃度のMS改変培地(pH:5.7)上に置床し、10~20℃の人工気象器で培養した。植物ホルモンとして、6-benzylaminopurine(BAP)と1-naphthaleneacetic acid(NAA)を組み合わせ、培地に最終濃度が0~5 mg/Lとなるようにそれぞれ添加した。花茎組織を15℃で約1ヶ月間培養したところ、BAPとNAAの添加濃度が高くなるに従い白色のカルスが誘導した。低濃度区においては小球様組織が形成された。さらに、25℃の培養条件に移したところ、BAPとNAAを1 mg/L添加した培地で柱頭様組織が誘導した。そこで、分化した柱頭様組織をメタノール抽出し、クロシン含量をHPLC分析した。 クロシンのHPLC分析条件として、Shimadzu LC-20AT型液体高速クロマトグラフ、カラム:TOSOH TSKgel ODS-120T(5 μm、150×4.6 mm I.D.)、移動相:メタノール/水=50/50(v/v)、流速:1.0 min/ml、カラム温度40℃、脱気装置:Shimadzu DGU-20A、検出器:Shimadzu SPD-20AV、測定波長:438 nm、で行ったところ、7分の溶出時間にクロシンと同等のピークが検出された。また、10分には1分子のグルコースが欠失したクロシン1も検出された。サフラン雌蕊と同様のピークを示したことから、組織培養で分化した柱頭様組織はサフラン雌蕊と同様のクロシンを生成すると考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
今回の柱頭様組織の誘導試験において、分割したすべての花茎組織切片から柱頭様組織の誘導は起こらず、限られた特定の部位で誘導する傾向があった。特に、球根より1~2cmの領域を分割した花茎組織から顕著に誘導することを明らかにした。しかしながら、培養の温度変化によって、カルスから柱頭様組織にどのように分化するのかについては、細胞レベルでの詳細な画像解析を行っていく予定である。とくに、サフランの花茎組織は、薄い外皮に覆われ、直径が2~3mmと細く、無色であるため、光透過の観察が非常に容易である。一方、柱頭様組織は、400~500nmの光を吸収するクロシンが産生されるため、特定の波長を花茎組織に照射することで、柱頭様組織を誘導する花茎組織部位が特定できると考え、さらに、それらを簡易に特定化するための光透過画像解析法を開発することが今後の研究課題である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度はサフランの花茎組織を用いた柱頭組織誘導培養システムの確立を第一目標として実施した。研究材料として使用するサフランは、9月以降より発芽し始め、12月上旬までに開花が終了する。組織培養に使用できる組織は12月から1月までの一定の期間であるため、2月下旬までに前年度の研究計画を終えることができた。次年度は、花茎組織から柱頭組織の分化発生を、特定の波長照射による観察研究を計画しているため、特殊光源とフィルター購入費に充てる予定である。
|