研究課題/領域番号 |
19K06325
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研究機関 | 鳥羽商船高等専門学校 |
研究代表者 |
白石 和章 鳥羽商船高等専門学校, その他部局等, 准教授 (40442454)
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研究分担者 |
神田 和也 鶴岡工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (00390401)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 深層学習 / 強化学習 / かん水制御 / 画像処理 / 果樹栽培技術 / 温州ミカン / スマート農業 |
研究実績の概要 |
三重県熊野市の極早生ミカンは東紀州地域の特産品であり、皮が青い時季に食べられ、出荷時期が早いことから他産地品種との競争力が高い。しかし、高齢化に伴う人手不足から高品質ミカンの安定生産が難しいことが、大きな課題となっている。本研究では、安価な可視光画像を用いる強化学習ディープラーニングネットワークによって、熟練者のかん水技術に匹敵する自動かん水制御を実現し「高品質ミカンの安定生産」を可能にするものである。また、本研究により得られた知見を横展開することで、全国の果樹生産技術の向上を目指す。本研究による安価な自律かん水システムは、日本における様々な分野の農業において、応用可能な可能性を秘めた技術である。 少子高齢化に伴う人手不足により、マルチドリップ栽培時に最も重要となる、かん水(水やり)タイミングの見極め技術が、新規就農者にとっての大きなハードルとなっている。これらの、かん水タイミングの見極めには、筆者らが開発したディープラーニングを用いた推定システムがあるが、大量の教師データ(筆者らの提案手法では、Leaf Water Potential: LWPを果樹毎に測定した対象果樹の画像データ)を必要とする問題がある。LWPの測定には、通常プレッシャーチャンバー法を用いるが、光合成活性の下がる深夜に行う必要があることや、高い圧力をかける必要があり、慎重で丁寧な作業が要求される。そのため大量の教師データを作成することは事実上不可能に近い。そこで、本研究では教師データを用いる学習方式ではなく、報酬(行動の結果が良かったか悪かったかを表す、粗い正解データ)を使用する強化学習手法Deep Q-Network(DQN)により、かん水の適切なタイミングを自律的に学習するシステムを開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により学際的活動が制限された影響があり、全体の進捗状況区分を判断した。しかしながら、研究そのものについては着実に進捗しており、以下に示す3つの観点毎に進捗状況を報告する。 「強化学習応用における具体的手法確立」高品質ミカンを安定栽培するためには、土壌水分量をはじめとした、環境状態から適切なかん水による水分ストレスの管理が必要不可欠である。我々は、熟練農家のみが持つ高度な技術を、限られた時間の中で自律的に学習するための強化学習手法としてティーチングを用いる手法を確立しつつある。 「定点カメラによる水分ストレス推定」本研究では、強化学習における行動選択の良し悪しを判断するシステムとして、深層学習を用いて樹体の静止画から水分ストレスを推定するシステムを既に開発済である。本システムは、筆者らがプレッシャーチャンバー法による水ポテンシャル測定から得られた教師データを深層学習器に学習させることで実現したシステムである。当該システムに教師データを追加することで正解率を90%にまで向上させることができた。現在さらに、多くの果樹画像特徴量を半教師あり学習により学習器に学ばせるためのプレテキストタスクを複数種類予備実験を行っている。予備実験の結果は良好であり正解率の向上が期待できる状況となっている。 「実証試験園地の確保と準備」本研究においては、実証実験が非常に重要となる。生きた樹体を対象とする実験であり、その維持費や樹体にかかる負担も考慮にいれ、極早生温州ミカンの代表的品種である日南一号を8樹体5系列、計40樹体を実地試験に向けて準備中である。40樹体は異なる、かん水制御系統が必要なため、系統毎の電磁弁とその開閉を強化学習に基づいて行う制御部が必要である。これらのAIかん水システムは既に完成しており、実地園地への設置およびテスト稼働を本年度中に行う予定となっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、現在の日本農業における就農者の高齢化、担い手不足等の喫緊の課題を解決することを目的としている。そのため提案する強化学習かん水システムにおいては、生きた果樹を対象とした実地における実証試験をもって、初めてその有効性が示されると考えている。ただし、対象は年毎のサイクルで栽培されるミカン果樹である。そのため、教師あり学習と比較して試行回数の多くなる傾向のある強化学習を、そのまま本応用課題に適用することは現実的ではない。本問題は、スマート農業において強化学習を応用する際に大きな課題となる。そこで、対応策として本研究においては紀南果樹研究室における知見を元に、学習器の初期状態にティーチングを施すことで前述の課題を解決する。当然、多様な状態空間探索能力とのトレードオフとなるが、本研究はあくまでも前述の日本農業の持つ大きな課題への解決策としての側面が強いこと、営農指導者の長年に渡る経験・知見が多様な状態空間探索に十分代わりうるものであるとの仮定の上、このような推進方策に基づいて研究を推進するものである。具体的な進捗状況としては現在、環境状態における、営農指導者レベルの知見について整理を進めており学習器の初期状態へ落とし込むための最終段階となっている。本手法は、強化学習をスマート農業へ応用する際の指針となる可能性を持っており、本研究の意義・成果の一つとなるべきものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究においては、当初、強化学習器に対してシミュレーションによる事前学習を行う予定であった。つまり、学習に時間のかかる強化学習手法の欠点を補うために予め計算機の計算資源や、シミュレーションに要する物的・時間的資源を予定していた。しかしながら、紀南果樹研究室との打ち合わせを重ね、様々なご指導やアドバイスをいただく中で、各産地において蓄積された知見を使ったティーチングによる事前学習に切り替えた。これは、紀州地域におけるミカン栽培についての詳細で緻密な営農指導基準を活かすためである。そのため、計算機シミュレーションに係る予算が前年度において不要となったためである。また、コロナ禍による緊急事態宣言や移動制限等もあり学会発表等の予定がキャンセルとなり旅費の使用額も当初予定より少額となったことも一因である。 今後の計画としては、ティーチングを終えた強化学習器を試験園地でオンライン学習させるための準備を進めている。具体的には、紀南果樹研究室の対象果樹の選定およびかん水制御システムの設置に費用を割り当てる。また、対象果樹の維持管理やコンディション調整のため必要な消耗品として肥料や農薬等も必要となる。果樹研究室の試験園地では、通常農家では不可能な対象果樹の細やかな調整・準備が可能であり、そのための費用が必要不可欠である。
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