研究課題/領域番号 |
19K06329
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤井 伸治 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (70272002)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水分屈性 / 重力屈性 / 根 / シロイヌナズナ / オーキシン輸送 / GWAS |
研究実績の概要 |
植物の根は養水分の吸収に機能するため、土壌中での根系の形成は、植物体の生育に重要である。根の伸長方向の決定は、屈性により制御され、土壌中での根系の形成・発達に影響すると考えられる。植物の根の重力屈性に対する水分屈性の強度に種間差が存在する。すなわち、エンドウ、キュウリなどの比較的大きな草本植物 (大型草本植物) では、水分屈性に比べて重力屈性が強く発現するのに対し、シロイヌナズナ、ミヤコグサなどの小さな草本植物 (小型草本植物) や、大型草本植物と小型草本植物の中間の大きさのイネでは、重力屈性に比べて水分屈性が強く発現する。このことから、大型草本植物の根では、水分屈性の発現に比べて重力屈性がより強く発現し、根を地中深くまで侵入させた後に、根系を発達させ、より多くの養水分を吸収し、地上部の活発な成長を支えていると予想される。また、エンドウ、キュウリ (大型草本植物) とイネ (大型草本植物と小型草本植物の中間の大きさ) では、オーキシン輸送依存的に根の水分屈性が発現するが、シロイヌナズナ、ミヤコグサ (小型草本植物) では、オーキシン輸送非依存的に水分屈性が発現する。しかしながら、これらの知見は異なる植物種 (イネ、キュウリ、エンドウ、ミヤコグサ、シロイヌナズナ) 間の比較であり、本知見の分子生物学的な理論への発展が困難である。そこで、本研究では、同一植物種の異なる系統での重力屈性と水分屈性の強度の差異、および、根の水分屈性のオーキシン輸送阻害剤の感受性を比較し、GWASにより、根の重力屈性と水分屈性の相互作用に影響を与える遺伝子、および、根の水分屈性のオーキシン輸送依存性に影響を与える遺伝子を探索・同定し、これらの遺伝的差異が根の屈性が根系の形成・発達と植物体の生育に与える影響を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
シロイヌナズナの根の水分屈性の検出には、2種類の実験系が用いられている。1つ目の実験系 (hanging system) は、密閉したアクリルチャンバーの片側に設置した水分供与体となる寒天培地と、逆側に設置したバットに満たした飽和炭酸カルシウム (K2CO3) 溶液との間で、水分勾配を形成させ、根の先端 (0.3 mm) が寒天培地から気中に出るように芽生えを寒天培地に移植し、根に水分勾配刺激を与える方法である。本法では、暗所で一定時間、根に水分勾配刺激を与えた後、芽生えを保持した状態で寒天を切り出し、実体顕微鏡下で、根を撮影し、得られた画像を用いて、根の屈曲角度を測定する。2つ目の方法 (split-agar system) は、寒天とソルビトールを含む寒天を張り合わせ水分勾配を形成させた寒天プレートにシロイヌナズナを移植し、寒天プレートを垂直に立て、寒天プレート上に伸張させた根に水分屈性を発現させる実験系である。そして、プレート上の植物体をスキャナーで取り込み、得られた画像を用いて、根の屈曲角度を測定する。split-agar systemでは、同一植物体での根の屈曲を、繰り返し測定できるので、継時的な根の屈曲を解析できる。そのため、シロイヌナズナの異なる系統間での根の水分屈性を比較するため、まず、split-agar systemを用いることとした。また、ゲノム塩基配列が明らかにされている80系統のシロイヌナズナを入手した。しかしながら、系統間の水分屈性の比較に至っていないため、(4) 遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は以下を行う。 <i> 初年度に入手したゲノム塩基配列が明らかにされている80系統について、split-agar systemを用いて継時的な水分屈性による屈曲角度を解析する。そして、得られた80系統の屈曲角度の解析結果を用いて、GWASを行い、水分屈性と重力屈性の発現の強弱に影響を与える遺伝的差異を探索する。 <ii> オーキシン輸送阻害剤の感受性の系統間差の検出にも、寒天培地に阻害剤を加えることにより植物体への阻害剤処理ができるsplit-agar systemを用いる。オーキシン輸送阻害剤として、NPA、TIBA、HFCAが知られているが、NPAについては、NPA存在下での重力屈性によるシロイヌナズナの根の伸長方向を指標にしたGWASが報告された (Ogura et al., Cell 2019. 178(2):400-412.e16)。そこで、まず、TIBA、あるいはHFCAを添加した培地上での水分屈性による屈曲角度を測定する。そして、得られた80系統の屈曲角度の解析結果を用いて、GWASを行い、オーキシン輸送阻害剤 (TIBA、あるいはHFCA) への感受性に影響を与える遺伝的差異を探索する。 <i>と<ii>を遂行する際、十分な検体数と実験回数を確保するため、入手したシロイヌナズナの系統の採種を行うとともに、他のゲノム塩基配列が明らかにされているシロイヌナズナを入手し、随時、解析に用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中に、シロイヌナズナの系統間の水分屈性の比較に至らなかったため、そのための経費が使用できなかった。次年度には、本比較を行い、経費を使用する計画である。
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