水分屈性の発現は、重力屈性の発現に干渉されるが、その程度は植物種により異なる。すなわち、エンドウ、キュウリなどの比較的大きな草本植物では、水分屈性に比べて重力屈性が強く発現するのに対し、シロイヌナズナ、ミヤコグサ、イネなどの比較的小さな草本植物では、重力屈性に比べて水分屈性が強く発現する。しかしながら、異なる植物種間の比較からでは、水分屈性と重力屈性の相互作用を担う遺伝子の特定が困難であった。そこで、本研究では、シロイヌナズナの217種の自然変異体間での水分屈性を比較した。その結果、シロイヌナズナの自然変異体の静置区での水分屈性による屈曲角度は、ほとんど屈曲しない自然変異体から、野生型 (Col-0) の2倍ほど屈曲する自然変異体へと徐々に変化し、シロイヌナズナの自然変異体の水分屈性の発現は多様であることが明らかとなった。そして、静置区で水分屈性の発現が低下する自然変異体は、水分屈性と重力屈性の両方の発現が低下する自然変異体と、水分屈性の発現は低下するが、重力屈性の発現は低下しない2つのグループに分けられることが示された。一方で、3Dクリノスタットによる擬似微小重力条件を用いた解析から、根の重力屈性による根の水分屈性の干渉作用は、シロイヌナズナの自然変異体間で比較的保存されていることが示唆された。 さらに、GWASにより、根の水分屈性の発現に影響を与える非同義多型を含む幾つかの遺伝子を見出した。非同義多型を含む幾つかの遺伝子の1つのMYB52遺伝子へT-DNA挿入変異体では、クリノスタット条件下での水分屈性の発現が増大したので、本GWAS は、水分屈性の発現に影響を与える多型を検出していると考えられた。従って、今後、本GWASの結果に注目した研究を展開することにより、根の重力屈性による水分屈性への干渉作用の分子機構が明らかになると期待される。
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