研究課題/領域番号 |
19K06331
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
内海 真生 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60323250)
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研究分担者 |
清水 和哉 筑波大学, 国際室, 准教授 (10581613)
李 沁潼 東洋大学, 生命科学部, 助教 (80821727)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カビ臭 / ジェオスミン / 2-MIB / 浄水処理 |
研究実績の概要 |
水中や底泥に生息する微生物が産生するカビ臭はng/Lレベルの極微量濃度でも人間の嗅覚で感知されるため、浄水処理において国や地方自治体に膨大な除去費用(数億円/年)を計上させ、かつ臭い吸着による水産物の経済的損失を与えている。このため、水源池や湖沼で安価にできるカビ臭発生抑制法の開発が渇望されている。そこで、カビ臭産生微生物にカビ臭物質産生を惹起する条件・引き金因子を明らかにし、知見に基づいたカビ臭発生抑制手法を開発する、ことを目的に本研究を実施する。 R2年度は、放線菌の増殖と代謝に強く影響を及ぼすと考えられる溶存酸素(DO)に注目し、溶存酸素濃度の違いがカビ臭産生微生物(モデル放線菌)のカビ臭物質産生量に与える影響について検討した。 まず、実験でのDO濃度を制御するためバイアルビンとブチルゴム栓を用いた密栓液体培養系を構築し、窒素ガスと酸素ガスの流量を制御して任意の溶存酸素濃度条件を創出した。実験の結果、DO 8 mg/L条件では、培養1日目まで対数増殖期、72時間まで定常期が継続し、カビ臭物質濃度は対数増殖期に増加したが定常期には増加しなかった。この結果は、放線菌は好気環境下では対数増殖期にカビ臭物質を産生し 定常期に産生を減少することを示す。また、DO 4 mg/L、2 mg/L条件では、定常期の菌体密度が8 mg/Lと比較して8割、5割程度となり、DO濃度低下が密度を減少させていた。一方、カビ臭物質濃度は72時間までに8 mg/L条件と同程度となったことから、貧酸素環境下ではDO濃度の低下に伴い1細胞当たりのカビ臭物質産生量が増加することが判明した。DO 0.4 mg/Lおよび0 mg/L条件では、培養中増殖は無く、カビ臭物質濃度も増加しなかった。0.4 mg/Lの著しい貧酸素条件や0 mg/Lの嫌気条件では放線菌は増殖せずカビ臭物質も産生しないことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究2年目であるR2年度は、R1年度に検討した光環境と共に水中に生息する放線菌の増殖と代謝に大きな影響を与える溶存酸素を研究対象に選定し、溶存酸素濃度の違いが放線菌の増殖やカビ臭物質産生に与える影響について明らかにすることとした。溶存酸素濃度条件を任意に設定するため、バイアルビンをブチルゴム栓とアルミニウムキャップを用いて密栓する密閉液体培養系を新たに構築し、窒素ガスと酸素ガスの流量をそれぞれ調整することで実験条件を創出した。この培養実験系を創出したことにより、溶存酸素濃度を飽和条件(8 mg/L)から嫌気条件(0 mg/L)まで創出し液体培養実験の実施することが可能となり、R1年度に得られた平板培養での知見に加え、放線菌が好気環境下で対数増殖期に主にカビ臭物質の産生を行っているなどの新たな知見を得ることにつながった。しかしながら、平板培養実験よりもばらつきは少ないが、液体培養においても放線菌の増殖状態がばらつきやすく安定した結果を得ることが難しいこと、液体培養系においても平板培養系と同様に安定した増殖を維持するために注意しなければならない点があることを学ぶことが出来た。これらの知見は、カビ臭物質産生微生物のカビ臭物質物質産生機構解明に必要な機能遺伝子発現解析などを効率的に行う際に重要な情報を提供するもので、最終年度の研究推進に大きく貢献するものである。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるR3年度は、R1年度に平板培養系で実施した光環境の放線菌の増殖や代謝への影響について、R2年度に構築した密栓液体培養系を用いて検討を行い、湖沼や河川中での放線菌の実際の挙動を明らかにしていく。また、R2年度に行った実験を発展させ培養期間中に溶存酸素濃度を変化させる条件などで実験を行い、溶存酸素濃度と放線菌の増殖やカビ臭物質産生量との関係をさらに明らかにする。 さらに、カビ臭物質産生抑制手法として我々が開発した電解質を必要としない酸素発生型電気化学的水浄化装置を稼働させた際の放線菌の増殖やカビ臭物質産生活性変化についての検討も行いたいと考えている。
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