研究課題/領域番号 |
19K06333
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
高橋 輝昌 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (20291297)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 都市化 / 緑地 / 土壌 / 化学的性質 / 有機物分解 |
研究実績の概要 |
都市化による土壌の化学的性質の変化が、(1)その土壌に生育する植物の元素濃度を変化させるか、(2)植物の落葉落枝の元素濃度が分解特性を変化させるかを調査した。 (1)では、都市化の影響をあまり受けていない山岳地の森林と、都市域の緑地で、土壌の化学的性質と、全ての調査地に共通して生育していたイヌシデの枝葉の元素濃度を比較した。都市域の緑地では土壌の交換性塩基(植物が利用できる形態の養分)が増加し、枝葉に含まれるマンガン濃度と窒素濃度が山岳地よりも高かった。 (2)では、窒素濃度とマンガン濃度が様々なイヌシデの枝葉を粉砕して土壌に混ぜ、室内培養して分解速度の変化に元素濃度がどのように影響するかを調べた。窒素濃度やマンガン濃度が高い枝葉では分解の初期に分解が促進され、分解の後期に分解が抑制された。一般に分解の初期には易分解性の有機物が分解され、分解の後期にはリグニンなどの難分解性の有機物が分解される。マンガンはリグニン分解酵素の材料となる。窒素は微生物の増殖に不可欠な元素であると同時に、有機物分解の作用により無機態窒素に形態を変化させるとリグニン分解を阻害する。分解前期にはマンガンによるリグニン分解促進作用と、窒素による有機物を分解する微生物の増殖促進作用により主に易分解性有機物の分解が促進される。しかし、分解後期には蓄積された無機態窒素によって難分解性有機物の分解が抑制される。 これらの作用により、都市化の進行により土壌中には難分解性の有機物が蓄積されやすくなり、有機物濃度が高まると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
都市化の進行に伴う都市林土壌での有機物蓄積の仕組みを明らかにすることが本研究の目的である。都市化の進行により土壌の化学的性質が変化し、土壌に供給される有機物のマンガン濃度が減少して有機物分解が変化し、土壌に有機物が蓄積するという仮説の検証を行っている。 これまでの研究で、マンガン濃度が低い有機物は分解が抑制されることが明らかになった。また、都市化によって植物体の窒素濃度が高まる傾向も明らかにできた。しかし、都市化に伴う土壌の化学的性質の変化がどのように植物体のマンガン濃度を変化させるのか、都市化に伴う土壌の酸の中和が有機物を分解する微生物の活性にどのように影響するのかについては、明らかにできていない。 1年目の成果としては、ほぼ予定どおりである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは山岳地と都市域の比較によって、都市化の影響を調査してきた。そのため、山岳地と都市のある平野といった環境の違いの影響を排除しきれなかった。今後、地形や地質に大きな違いがない同一地域内において、都市化の進行程度が異なる緑地間での土壌や有機物分解特性などの比較を行い、都市化の影響をより詳細に明らかにしていく。 有機物分解特性に関して、これまで微生物相による有機物分解に焦点を当ててきたが、実際の緑地では動物相が有機物分解に一定の役割を果たしていることが予想される。今後、動物相にも調査対象を広げ、都市化による種組成や個体数の変化、有機物分解に及ぼす影響などを明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
有機物の分解特性を把握するための室内培養実験の一部の実施時期を次年度に変更したため、次年度使用額を生じた。次年度(令和2年度)に繰り越し分を使用予定である。
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