研究課題/領域番号 |
19K06340
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
伊藤 貴文 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (10402827)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | alginate / alginate lyase / chitin / sugar binding protein |
研究実績の概要 |
キチンなどの多糖は、生物が作る再生可能な資源である。本研究では、その有効利用のために、「Paenibacillus属細菌によるキチン分解の制御機構の解明」を行っている。本年度は、下記の研究を実施した。 (1) キチンオリゴ糖結合タンパク質 (NagB1, NagB2) の糖質結合能の解析 これまでに、細菌によってキチンが分解されてできるオリゴ糖を菌体内へ輸送する装置として、キチンオリゴ糖結合タンパク質を2種類見出し、それらの組換えタンパク質を調製してきた。本年度は、それらタンパク質とオリゴ糖との結合と解離を分子間相互作用解析によって解析した。さらに、X線結晶構造解析によって、それらタンパク質のオリゴ糖認識機構を明らかにした (現在、論文発表準備中)。今後、輸送装置全体の解析を行う。 (2) 不飽和アルギン酸オリゴ糖の植物種子に対する効果 これまでに、Paenibacillus属細菌が細胞外にアルギン酸リアーゼが分泌することを見出し、本酵素が3から5糖の不飽和アルギン酸オリゴ糖を特異的に生産することを明らかにしている。今回、オリゴ糖のイネ及びコマツナ種子発芽に対する影響を調べたところ、このオリゴ糖は優位に根の伸長を促進した。次に、発芽したコマツナ種子のβ-1.3-グルカナーゼ活性 (病害抵抗性の指標) を測定したが、オリゴ糖添加による活性の上昇は認められなかった。よって、不飽和アルギン酸オリゴ糖は、植物のエリシター活性を誘導するのではなく、別の機構により根の伸長を促進することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度、下記の成果を得た。当初の研究計画のとおりに進めていたが、新型コロナウイルスの影響により、キチン分解に関わる遺伝子の発現を制御する機構の解析や、論文や学会での成果の発表を十分に行うことができなかった。 (1) キチンオリゴ糖結合タンパク質 (NagB1, NagB2) の糖質結合能の解析 キチン分解物であるオリゴ糖を細菌菌体内へ輸送する装置として、キチンオリゴ糖結合タンパク質を2種類同定した。さらに、分子間相互作用解析によって、これらのタンパク質が特異的にキチン2糖を認識する (Kd = 約200 nM) ことを明らかにした。そして、X線結晶構造解析によって、タンパク質のオリゴ糖認識機構を明らかにした (現在、論文発表準備中)。今後、輸送装置全体の機能や立体構造解析を進める。 (2) 不飽和アルギン酸オリゴ糖の植物種子に対する効果 今回、Paenibacillus属細菌が分泌するアルギン酸リアーゼによって、3から5糖の不飽和アルギン酸オリゴ糖を大量に調製する方法が確立された。そして、このオリゴ糖が優位にイネやコマツナ種子の根の伸長を促進することを明らかにした。さらに、不飽和アルギン酸オリゴ糖が、植物のエリシター活性を誘導するのではなく、別の機構により根の伸長を促進することを示唆する結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
下記、交付申請書に記載した通り、研究を進めていく。 (1) キチン分解に関わる遺伝子の発現を制御する機構の解析 (二成分制御系の解析): P. PFU-7の一部のキチン分解酵素は、キチンオリゴ糖によって発現が誘導される。これまでにキチンオリゴ糖結合タンパク質 (NagB1) とオリゴ糖加水分解酵素 (NagZ) 近傍の配列に遺伝子発現制御系の一つである二成分制御系のタンパク質複合体 (NagSとNagR) を見出している。今後、NagB1とNagZと二成分制御系 (NagSとNagR) がキチンオリゴ糖をシグナルとして協奏的に機能を果たしているのか、RT-PCRによる転写解析およびウエスタンブロッティングによる翻訳解析によって確認する。さらに、NagR (レスポンスレギュレーター) が相互作用する塩基配列をクロマチン免疫沈降法とDNAシーケンスによって網羅的に同定する。そして、P. FPU-7あるいは近縁種を有用物質の生産菌として利用できるように、タンパク質の発現制御法への展開を図る。 (2) 細胞表層発現タンパク質の網羅的解析: P. FPU-7の細胞表層に存在するタンパク質を質量分析装置を利用して網羅的に同定する。培養条件や時期によるタンパク質の発現の差異を解析することで、二成分制御系以外にも、キチン分解やその制御に関わるタンパク質を探索する。また、同時に細胞壁の構築や細胞増殖に関わるタンパク質の知見も得られることも予想され、P. FPU-7や近縁種による有用物質の効率的な生産方法の確立にも期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、当初の研究計画のとおりに進めていたが、新型コロナウイルスの影響により、キチン分解に関わる遺伝子の発現を制御する機構の解析や、論文や学会での成果の発表を十分に行うことができず、次年度での使用が生じた。2021年度物品費として利用する。
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