研究課題/領域番号 |
19K06342
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小川 拓水 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (00580367)
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研究分担者 |
太田 大策 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (10305659)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ユーグレナ / 低酸素環境 / パラミロン / ワックスエステル / ワックスエステル発酵 / ミトコンドリア / 還元的TCA回路 / 脂肪酸合成 |
研究実績の概要 |
ユーグレナ(Euglena gracilis)は,二次共生起源の色素体を持つ自由生活性鞭毛虫の一種である。余剰の光合成産物や外因性有機物を不溶性β-1,3-グルカン(パラミロン)に変換し,細胞内に貯蔵する。低酸素状態に晒されると,パラミロンの加水分解が起こり,それに連動してミトコンドリアに局在する脂肪酸合成系が起動する。この代謝シフトによりATP生産量と酸化還元バランスが維持され,最終産物として脂肪酸と脂肪族アルコールのモノエステル体であるワックスエステルが合成される。この一連の代謝過程はワックスエステル発酵と呼ばれる。ワックスエステル産生量は最大で細胞乾燥重量の50%にも達するが,この炭素代謝の全体像は依然として不明な点が多く残されている。研究代表者らは,メタボローム解析手法と安定同位体標識炭素を用いたトレーサー手法を駆使し,ワックスエステル発酵誘導後の炭素代謝を解析し,環境中二酸化炭素を由来とする炭素が奇数鎖脂肪酸合成のプライマーであるプロピオニルCoAに取り込まれることを明らかにした。本研究では,低酸素環境下で起動する二酸化炭素固定経路に着眼し,分子レベルでの新知見獲得と生理機能解明を目的とする。さらに,この二酸化炭素経路の人為的改変がワックスエステル産生量向上に有効であるかを検証する。 当該年度(令和元年度)は,(1) 二酸化炭素固定反応を触媒する代謝酵素の同定を目指し,公的に入手可能なユーグレナのトランスクリプトームデータの中から,注目する代謝反応を触媒する可能性のある酵素をコードする候補転写産物の探索を行った。また,(2) 低酸素環境下で起動する二酸化炭素固定経路が担う生理機能解明を目的として,ミトコンドリア内外での代謝解析の精度を高めるために,生細胞から機能を保持したミトコンドリアを迅速かつ簡便に単離するための実験系構築を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 注目する二酸化炭素固定反応を触媒する代謝酵素の候補としてphosphoenolpyruvate carboxykinase (PEPCK)とisocitrate dehydrogenase (IDH)に着眼した。公的に入手可能なユーグレナのESTデータやRNAseqデータを参照配列として,他生物由来の既知PEPCKやIDHと類似性の高い配列を探索した。PEPCKについては,ATP依存型PEPCKおよびGTP依存型PEPCKをコードすると推測される転写産物を見出した。IDHについては,単量体で機能するNADP依存型IDHおよび二量体で機能するNADP依存型IDHをコードすると推測される転写産物を見出した。 (2) ユーグレナ生細胞から機能を保持したミトコンドリアを多量に単離する実験系を構築するために,ユーグレナや他生物のミトコンドリア単離手法に関する文献を調査した。並行してユーグレナ培養系スケールアップの検討を進めた。ワックスエステル発酵誘導後の代謝解析の解像度を高めることを目的として,ワックスエステル生合成量を高める作用を示すことが明らかとなっている10種類の低分子化合物について詳細な解析を行った。これらの化合物を処理した細胞では,貯蔵多糖パラミロンの分解代謝が亢進することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 初年度に獲得した情報を基にして,RACE法により注目する代謝酵素をコードすると推測される転写産物の全長cDNAクローンを取得する。DNAシーケンス解析を行い,それぞれのcDNAの全塩基配列を決定する。RNAi法により標的転写産物を分解した細胞系統を樹立する。樹立したRNAi系統を低酸素条件下で培養してワックスエステル発酵を誘導し,ワックスエステルの蓄積量および組成を分析する。以上より,注目する代謝酵素のワックスエステル発酵への関与の有無を明らかにする。 (2) 初年度に収集した情報を基にして,ミトコンドリア単離条件の最適化を進める。各種蛍光プローブを用い,ミトコンドリア内膜損傷程度の定量化や膜電位の可視化を行い,単離ミトコンドリアの完全性を評価する。単離ミトコンドリアを用い,代謝物の膜間輸送を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが,研究計画に変更はなく,前年度の研究費も含め,当初予定通りの計画を進めていく。
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