研究課題/領域番号 |
19K06345
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
橘 隆一 東京農業大学, 地域環境科学部, 准教授 (20432297)
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研究分担者 |
泉 桂子 岩手県立大学, 総合政策学部, 准教授 (10457898)
下嶋 聖 東京農業大学, 地域環境科学部, 准教授 (60439883)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水資源 / 水収支 / 多摩川源流域 / 森林蒸発散量 |
研究実績の概要 |
東京都水道水源林を含む多摩川源流域における構成樹種である落葉広葉樹林および針葉樹林の現地調査を展開した。多摩川源流域を構成する一樹種であるカラマツ人工林の蒸発散量について,成長段階あるいは林齢に伴う変化曲線を求めるため,幼齢カラマツ人工林にて予定3年の調査を開始した。カラマツ人工林は構成樹種の中では優占割合は低いものの落葉広葉樹林を除いた他の針葉樹林である,スギ林やヒノキ林と比較して蒸発散量に関する情報量が少ないことから選定することとし,展葉期から落葉期まで特に樹冠遮断量を測定した。 主に明治時代初期から後期にかかる黎明期の東京都西多摩郡において,森林・林業の実態変遷を既存資料から林政学的な手法によって明らかにするため,その最適なアプローチ手法を同じ対象年代における岩手県内の事例を用いて検証した。岩手県が明治政府の指示に応じて著した村誌で,県内642村の人口・農地・地租・物産などが記録されている『岩手県管轄地誌』を用いて,1878年前後の岩手県内における林産物の生産状況を明らかにした。一方,多摩川水源地域における調査を予定したが訪問予定地が台風19号の被害を受けたため,生業等の変遷構造が類似している岐阜県恵那市において調査を行った。成果の一部はそれぞれ日本森林学会において発表した。 戦後の空中写真について検討を進め,国土地理院の地図・空中写真サービスをベースに補正をかけながら比較・解析を進める方向性を示すことができた。 水文水資源学会誌のコラム欄において本科研費の研究内容を一部紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多摩川源流域における構成樹種である落葉広葉樹林および針葉樹林の現地調査は,当初,東京農業大学奥多摩演習林を予定したが,機材搬入等に適切な調査サイトを見つけられなかったため,既に数年間に渡りデータの蓄積が進んでいた筑波大学川上演習林の落葉広葉樹林であるミズナラ林にて蒸発散調査を展開した。当地は,実際の多摩川源流域ではないが気候帯区分から同条件に近い調査サイトであると判断した。カラマツ幼齢林についても現在は多摩川源流域においてはほとんど存在しないため,調査地を岩手県八幡平市大更に見つけ調査を進められている。実地調査は概ね予定通り展開できている。ただし,3月末に,新年度からの展葉期における実地調査の準備を検討したが新型コロナウィルス感染拡大の影響により断念した。 一方,東京都の水道水源林を含む多摩川源流域における実地調査を予定したが,訪問予定地が台風19号の被害を受けるなど予定変更を余儀なくされた。しかし,研究対象年代や社会構造等の条件が類似する他地域において本研究目的を達成しうる調査を展開することができた。 既成のデジタルマップやArcGIS上で森林計画図とデータ結合を行うことを当初計画していたが,購入予定だった既成のデジタルマップでは,本研究の対象流域全体をカバーしていないことが想定され,目的達成が困難であることが購入前に明らかになったことから使用を避けた。同時に,戦後の空中写真について検討を進め,国土地理院の地図・空中写真サービスをベースに補正をかけながら比較・解析を進める方向性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度,次々年度では,初年度までに得られた現地調査を含めた各地で行われている森林の蒸発散量の測定データ,過去に記録されている多摩川水源地域の降水量データを当てはめて,各年の森林蒸発散量を推計する。多摩川の河川流量を蒸発散量データの裏付けとして利用し,森林の歴史的変遷に伴う水収支の変化を推計し,解析する。今年度の現地調査等の結果から,次年度では,樹種や林齢,材積,樹高,立木密度と蒸発散量の関係性を解析し,その結果と気象資料から小林班ごとの蒸発散量を推定する。 さらに,次々年度では,東京都水道事業年報等に記載されている伐採量と新植量から,1903年から現在までの流域内における林分の移り変わりを把握する。戦後の空中写真について検討を進め,国土地理院の地図・空中写真サービスをベースに補正をかけながら未整理分の森林情報の比較・解析を進めるとともに,地理空間情報システムを用いてポリゴンで区分し,高精細マッピング化する。 以上により多摩川源流域における1世紀超分の森林構造と水収支の変遷を解明する。加えて,対象地域である多摩川源流域の町史,村史などと照らし合わせて,流域における災害史の科学的証拠を明らかにし,未来の流域計画に反映させることを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
既成のデジタルマップやArcGIS上で森林計画図とデータ結合を行うことを当初計画していたが,購入予定だった既成のデジタルマップでは,本研究の対象流域全体をカバーしていないことが想定され,目的達成が困難であることが購入前に明らかになったことから購入を避けた。その結果,次年度使用額が生じることとなった。次年度では特に戦後の空中写真について比較・解析を進める方向性から,国土地理院の地図・空中写真サービス等による航空写真の購入を予定している。
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