本研究ではニワトリの食欲調節における中枢の細胞内シグナル伝達因子の役割について調べた。その結果、TGF-βの中枢投与により視床下部のSmad2のリン酸化と摂食量の有意な減少が認められた。しかしながら、自由摂食、絶食、及び再給餌のいずれの給餌条件においても視床下部のリン酸化Smad2タンパク質を検出できなかった。これらのことから、ニワトリ中枢におけるSmadシグナリングの上向き調節は摂食を抑制することが示唆されたが、その上向き調節は生理的には生じない可能性が示された。次に、レイヤーでは、絶食後の再給餌、及びインスリンの中枢投与により延髄のAktとERKのリン酸化タンパク質量、或いはその割合が有意に増加した。これらのことから、レイヤーでは延髄のAkt、及びERKシグナリングの上向きは摂食を抑制し、その上向き調節にインスリンが関与していることが示唆された。一方、ブロイラー(肉用鶏)では、再給餌により延髄のAktとp38MAPKのリン酸化の割合が増加する傾向を示したが、ERKのリン酸化の割合に有意な変化は認められなかった。これらのことから、ブロイラーでは、延髄のERKは摂食調節に関与しておらず、Akt、及びp38MAPKが摂食調節に関与している可能性が示された。次に、コレシストキニン、グルカゴン様ペプチド(GLP)-1、及びGLP-2の腹腔内投与により摂食量は有意に減少したが、延髄のAktとERKのリン酸化の割合に有意な変化は認められなかった。したがって、これらの消化管ホルモンの摂食抑制に、延髄のAkt、及びERKは関与していない可能性が示された。最後に、視床下部AMPKのリン酸化の割合に、GLP-1、及びGLP-2の中枢投与による有意な差は認められなかった。したがって、中枢のGLP-1、及びGLP-2による摂食抑制に視床下部のAMPKシグナリングは関与していない可能性が示された。
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