研究課題/領域番号 |
19K06354
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
橘 哲也 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (80346832)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ニワトリヒナ / 摂食行動 / toll様受容体 / 家畜行動学 / 家畜栄養学 |
研究実績の概要 |
本研究では、ニワトリが病原性微生物に感染した際の食欲不振のメカニズムを解明することを目的として、toll様受容体(TLR)に結合する様々なリガンドをニワトリヒナに投与した際の摂食行動および生理反応の変化を調べることを目的とした。そのため、二年目にあたる令和二年度では、①TLRリガンドによるニワトリヒナの摂食抑制モデルの確立、および②TLRリガンドが関わる摂食調節ネットワークの解明の二点について調査することとした。①については、最近成分であるフラジェリン(TLR5リガンド)を腹腔内投与した後の摂食量の変化を調べた。その結果、フラジェリンがニワトリヒナの摂食行動を抑制することを明らかにした。これにより細菌感染による食欲低下モデルの確立に成功したと判断した。②についてはフラジェリンドがニワトリヒナの運動量や体温、飼料の消化管通過、および血中コルチコステロン濃度に与える影響を調べたところ、いずれの行動および生理反応においてもフラジェリンによる影響を受けることが明らかとなった。また、フラジェリンが脾臓におけるサイトカインの遺伝子発現に影響を与えることを見出し、フラジェリンによる食欲不振にサイトカインが関与している可能性を示唆した。さらに、哺乳類ではtoll様受容体が酸化ストレスを引き起こすことが報告されているため、血液中の一酸化窒素の代謝産物(NOx)濃度および酸化ストレスマーカーであるTBARS濃度について調べた。ニワトリヒナにリポポリサッカライド、poly I:C、レシキモド、ザイモサンA、そしてフラジェリンを投与すると、いずれのtoll様受容体リガンドでも血中NOx濃度を増加させることが明らかとなった。一方、リポポリサッカライドやザイモサンAではTBARS濃度に影響を与えないことも明らかとし、本研究のモデルでは酸化ストレスがそれほど生じていないことを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究実施計画に基づき、①TLRリガンドによるヒナの摂食抑制モデルの確立、および②TLRリガンドが関わる摂食調節ネットワークの解明の二点について取り組んできた。①については、フラジェリンの効果を調査したところ、フラジェリンがニワトリヒナの摂食を抑制したことから、摂食抑制モデルの確立が進んだと判断した。②についてもフラジェリンの行動および生理反応を調べ、そして運動量や体温、飼料の消化管通過、および血中コルチコステロン濃度に影響を与えることを明らかにした。これにより、運動系、体温、消化器系、ストレス反応系がTLRリガンドによる食欲不振に関わっていることを見出すことができた。また、フラジェリンがニワトリヒナの脾臓におけるサイトカイン(インターロイキン1β、インターロイキン6、インターロイキン6、インターフェロンγなど)の遺伝子発現量を増加させたため、これらのサイトカインも両リガンドによる食欲不振に関わっている可能性を示唆した。また、TLRリガンドと酸化ストレスとの関係性について調べたところ、TLRリガンドが少なくとも本研究の条件ではそれほど強い酸化ストレスを引き起こさないことを見出した。また、TLRリガンドが一酸化窒素の合成を促すことから、一酸化窒素もTLRリガンドの摂食抑制作用に関わる可能性を示唆した。これらの結果により、②に関する調査もおおむね順調に進んでいると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5およびTLR7/8のリガンドの効果を明らかにしてきた。今後はTLR1およびTLR6のリガンドの作用について調べる予定である。これらの未調査のリガンドについても、行動反応、生理反応、および脾臓におけるサイトカインの遺伝子発現量に関する調査を進め、TLRリガンドによる食欲不振のメカニズムの解明を進める。さらに、令和二年度の研究により一酸化窒素がTLRリガンドの作用に関わっている可能性が示唆されたため、一酸化窒素がニワトリヒナに与える影響を明らかにする。加えて、RNA-seq解析を行い、TLRリガンドの作用に関わる脳内遺伝子を網羅的に解析する。さらに、末梢と中枢の関係性についても行動学的手法を中心として調査を行う。これらの手法を用いることで、TLRリガンドの摂食抑制作用に関わるネットワークの解明に取り組む。
|