研究課題/領域番号 |
19K06359
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
山下 泰尚 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (50452545)
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研究分担者 |
島田 昌之 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (20314742)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生殖生理学 / 卵胞発育 / 卵子 / エピゲノム / トランスフェリン / 鉄イオン |
研究実績の概要 |
体外成熟培養法(IVM)は,家畜増産に有用であるが,IVM胚は代謝機能低下とインプリント遺伝子のメチル化異常を引き起こす。我々はこれまでの研究により,卵胞発育期に鉄輸送タンパク質のトランスフェリン(TF)が蓄積することを見出したがその意義については不明である。近年TFから供給される鉄は,代謝向上やエピゲノム修飾に関与することが報告されていることから,TFにより供給される鉄は顆粒膜細胞(GC)および卵丘細胞(CC)の代謝活性を向上させ,これによる代謝物蓄積により卵子のインプリント遺伝子のメチル化が促進されると仮説を立てた。昨年度は,卵胞発育期のGCおよびCC特異的TF受容体欠損(Tfr1cKO)マウスを作成し,野生型マウス(Floxedマウス)と比較検討した結果,Tfr1cKOでは,発情兆候が微弱で,E2量の低下し,卵胞発育不全を呈することを明らかにした。R2年度においては,TF-Fe3+を添加した培養区で培養した野生型マウスの顆粒膜細胞をメタボローム試験に供試し,鉄依存的に顆粒膜細胞において活性化される代謝経路について検討を行った。さらに,TF-Fe3+は卵胞発育時に卵胞液中に蓄積することから,ブタCOCを卵胞発育期を模倣したpre-IVM(無添加区 vs TF-Fe3+区)で培養し,その後通常のIVM培地で成熟培養し,発生率を調べた。その結果,マウス顆粒膜細胞においてTF-Fe3+依存的にTCAサイクル,電子伝達系,グルタチオン合成,塩基合成,メチル基供与体合成(SAM)が活性化することを見出した。さらに,TF-Fe3+を添加してpre-IVMしたブタCOCを通常のIVMで培養した時の卵子成熟率および卵丘細胞の膨潤が無添加区に比べ有意に増加した。加えて,これらの卵子をブタの新鮮精液を用いて媒精したときの胚盤胞期までの発生率は40%と通常の培養時に比べ2倍に増加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メタボローム解析により,TF-Fe3+依存的に活性化する代謝経路の全容を明らかにすることができた。さらに,ブタIVMの改良については概ね終了していおり,順調に研究は進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
Tfr1cKOメスマウスの作出効率を向上させるために,マウス飼育数を大幅に増加させる予定である。これを用いて,次年度は鉄依存的にインプリント遺伝子のプロモーター領域におけるメチル化が生じているのかという実験を重点的に行う予定である。 また,ブタCOCをTF-Fe3+添加培地で培養することで胚盤胞率が増加した理由についてもメタボローム解析に供試し,代謝経路の活性化について検討するとともに,卵子のインプリント遺伝子のメチル化状態についてバイサルファイトシークエンスにより解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度,マウス数の十分な確保が出来なかったため,Tfr1cKOマウス卵子のバイサルファイトシークエンスを行うことができなかったが,既にサンプルを確保するためにマウス飼育数を増加させていることから,2021年度に使用する予定である。
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備考 |
第23回日本IVF学会学術集会において柳町隆造賞を受賞藤内慎梧,河端茜,島田昌之,山下泰尚 マウスにおける鉄欠乏は卵胞発育不全による雌性不妊を引き起こす 第23回日本IVF学会学術集会
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