体外成熟培養法(IVM)は,家畜増産に有用であるが,体外成熟卵子を受精させた後の胚盤胞率は20%程度と頭打ちである。IVM胚は代謝機能低下とメチル化異常を引き起こすことが示されている。我々はこれまでの研究により,卵胞発育期に鉄輸送タンパク質のトランスフェリン(TF)が蓄積することを見出した。近年,鉄は代謝向上やエピゲノム修飾に関与することが示されたことから,鉄が顆粒膜細胞(GC)の代謝活性と遺伝子のメチル化が促進されると考えた。昨年度までの研究において,卵胞発育期のGC特異的TF受容体欠損(Tfr1cKO)マウスを作成し解析した結果,Tfr1cKOは発情兆候が極めて微弱で,卵胞発育不全となることを明らかにした。さらに,鉄はマウス顆粒膜細胞のTCAサイクル,電子伝達系,塩基合成,メチル基供与体合成(SAM)を活性化することをメタボローム解析により明らかにした。R3年度では,まずTfr1cKOマウスおける卵胞発育不全の原因を調べた結果,FSH受容体(Fshr),E2産生酵素(Cyp19a1)の発現とE2分泌能が著しく低下していることを見出した。さらに卵胞発育を誘導したTfr1cKOマウスでは,既に黄体様組織が多数認められ,早期黄体化が生じていた。したがって,鉄はFSHRの発現を誘導することにより正常な卵胞発育を誘導し,顆粒膜細胞の黄体化を抑制する因子であることが明らかになった。さらに,ブタCOCを予めHolo-TFで培養(pre-IVM)することにより胚盤胞作成率40%に達する新規IVM法を構築した。現在,Tfr1cKOマウスではFshr遺伝子のエピゲノム修飾異常が生じているかを検討しているところである。
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