研究課題/領域番号 |
19K06362
|
研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
武田 久美子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門乳牛精密管理研究領域, 上級研究員 (60414695)
|
研究分担者 |
小林 栄治 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門食肉用家畜研究領域, ユニット長 (00186727)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ウシ / 精子 / 人工授精 / 受胎率 / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
ウシ人工授精において精液性状検査による評価結果が良好でも受胎性の低い精子が存在している。我々は、受胎性の新たな指標として環境要因で変化しうるエピゲノム情報であるDNAメチル化率の変化に注目し、加齢や受胎性へ関連するウシの精子核DNAメチル化可変領域(DMRs)をいくつか明らかにしてきた。本課題では、受胎性の異なる黒毛和種由来精液のメチル化レベルの網羅的比較分析から指標となり得るDMRsを選択し、複数のDMRsを指標としたウシ凍結精液の受胎性予測法を開発することを目的としている。 昨年度に引き続き全ゲノムバイサルファイトシーケンス(WGBS)解析によりデータを追加し、ヒトメチル化マイクロアレイを用いて絞り込んだ受胎性に関連するCpGsの近傍のメチル化部位について、簡易分析法であるCombined Bisulfate Restriction Analysis(COBRA)法によってメチル化率を調査した。最終的に受胎性予測に使用するDMRsを10箇所選定した。人工授精後の受胎性の明らかな凍結精液約50検体について10箇所のDMRsのDNAメチル化率から重回帰分析による受胎性予測を試みたところ、回帰式y = 1x - 0.002(相関係数 = 0.71)の近似直線が得られ、黒毛和種種雄牛の受胎性予測に資すると考えられた。また、さらに厳選した結果、受胎性の推定には10箇所の内3箇所のみのデータを用いることでも10箇所と同様の推定精度が得られるとの結果が得られた。すなわち、DMRsの選定をするために検体数を増やすことは今後も必要であるが、受胎性予測に用いるDMRsの数を増やす意義は少ないと考えられた。また一方で、体外受精試験を行い、得られた胚盤胞期胚1個1個についてこれらのDMRsのメチル化率の動態についてCOBRA法を用いて調査したところ、そのメチル化率に一定の傾向は認められなかった
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
WGBS解析データを2検体追加し、最終的に受胎性予測に使用するDMRsを予定通り10箇所選定した。人工授精後の受胎性の明らかな凍結精液約50検体について10箇所のDMRsのDNAメチル化率から重回帰分析による黒毛和種種雄牛の受胎性予測値を算出したところ、実測値と一定の相関が認められたことから、受胎性予測に有効であると考えられた。また、DMRsの選択の結果、受胎性の推定には10箇所の内3箇所のみ調査することでも同様の推定精度が得られるとの結果が得られた。一方、若齢期の検体からの受胎性推定を目指すため、精液採取が3歳未満の検体のみのマイクロアレイ解析結果から、人工授精後の受胎率に関連するDMRsの抽出を試みたが、受胎性に資するDMRの選定には至らなかった。今後3歳未満の検体についてよりデータを収集する必要があると考えられた。 得られた成果については、2020年9月に開催された日本繁殖生物学会にて研究発表を行うと共に、2021年1月に論文公表を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、引き続き体外受精に用いた精子、体外受精前の成熟卵子、体外受精後の胚におけるDMRsのメチル化動態や個々のプロファイルを調査し、初期の胚発生への関与の可能性を検討する。また、体外受精成績の明らかになった検体については、マイクロアレイやWGBS、COBRAの解析結果から体外受精成績とDNAメチル化率に関連性のある候補DMRsの選定をさらに進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年9月に開催した日本繁殖生物学会(東北大学)へ参加を予定していたが、オンライン開催となったため2人分の旅費分を次年度に繰り越しとした。また、出勤削減により雇用予定の契約職員の賃金の支払いが予定より減となったため、次年度に契約職員の賃金として繰り越しした。
|