研究実績の概要 |
ウシ人工授精において精液性状検査による評価結果が良好でも受胎性の低い精子が存在している。ヒトでは不妊症や老化に関連した精子核DNAのメチル化異常が示され、ウシでも精子核DNAメチル化の関与が注目されている。本研究では、受胎性の異なる精液の精子DNAメチル化レベルの網羅的比較分析から指標となり得るDNAメチル化可変領域(DMR)を選択し、メチル化率を簡易検出系へ展開することで、多数の凍結精液のDNAメチル化率や体外受精胚レベルでのDNAメチル化動態を明らかにする。これにより複数の精子核DNAメチル化可変部位を指標としたウシ凍結精液の受胎性予測法の開発を目指すことを目的とした。 人工授精後受胎率の明らかな雄牛の凍結精液から抽出した精子DNAを用いて、ヒト用DNAメチル化アレイ(イルミナ社、EPIC、ウシで約7~9万箇所のCpG部位の評価が可能)からメチル化率が受胎性に関連するCpG部位を抽出した。また、全ゲノムバイサルファイトシークエンスによりCpG部位前後2kbのDNAメチル化レベル状態を解析し、メチル化可変部位を多数集積するDMRを抽出した。抽出したDMRのうち、バイサルファイト処理した精子DNAを鋳型としたPCR、および制限酵素処理による検出法(Combined Bisulfite Restriction Analysis, COBRA)を用いたメチル化率の簡易評価が可能である領域を選定し、検出されるメチル化率が受胎性に関連する領域を10箇所発見した。また、10箇所のDMRのメチル化率から回帰式により雄牛の人工授精後受胎率(SCR)の推定値を算出したところ、実測値との相関性が高く、これらDMRのメチル化率は雄牛の受胎性評価の指標として利用価値があると考えられた。
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