研究課題
鳥類の受精は複数の精子が卵細胞質内に連続的に侵入する多精侵入によって達成されるが、卵内で起こる受精シグナルングに関してはほとんど分かっていない。我々は、ホスフォリパーゼCゼータ(PLCZ)、クエン酸合成酵素(CS)およびアコニット酸ヒドラターゼ(AH)を卵細胞質内に放出される精子由来の卵賦活化因子として同定することに成功し、卵の減数分裂の再開にはそれぞれのタンパク量が精子100個分以上必要であることを明らかにしてきた。しかし、雌性核と融合する精子核は1個のみであり、その他の余剰精子核は受精の過程で卵細胞質内で消化されることが分かっているが、その消化を惹起する分子シグナリングについては不明である。本年度は、その分子機構を明らかにするための実験を行った。プロテオームおよびcDNA解析を行った結果、排卵直後のウズラ卵には他動物卵では見られない特異的な核分解酵素(DNase)が発現していることが分かり、またそのDNase(EDNase)には精子のDNAを分解できる能力が備わっていることも明らかとなった。しかしながら、受精して間もなくEDNaseは分解されることが判明し、この分解は精子由来のCSとAHが起点となった卵プロテアソームによるものであり、CSとAHが惹起する卵細胞質内カルシウムシグナルングとは独立した経路であることも分かってきた。また、更なる研究からEDNaseと同類のDNaseが精子の頭部(SDNase)に発現していることが分かってきたため、受精後の卵細胞質内におけるSDNaseの挙動について解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
予想とは異った結果ではあるものの、更なる鳥類に特異な受精機構の一端が明らかとなってきた一方で、精子核分解に関わる分子シグナリングの実体がまだ不明であるため。
遅延した研究を鋭意進めるとともに、受精能を保持する未受精卵の長期保存することができる条件も確立されつつあるため、更なる条件改良とそのメカニズムを明らかにすることを目指す。
新型コロナウィルスの影響により、年度末の研究出張や参加予定の学会が開催中止となり、それらに必要な旅費等に充てることができなかった。次年度に遅延している実験のより詳細な解析を進めるために必要な試薬等を購入に充てる計画である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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https://www2.sci.hokudai.ac.jp/faculty/researcher/shusei-mizushima