研究課題/領域番号 |
19K06364
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
浦島 匡 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (80185082)
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研究分担者 |
福田 健二 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (80419217)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ウシ初乳 / ヤギ初乳 / ヒツジ初乳 / 糖ヌクレオチド / 糖リン酸 / ヌクレオチド / 上皮細胞増殖促進 |
研究実績の概要 |
初乳から糖ヌクレオチドを簡便に分離できるイオン交換クロマトグラフィー分離技術の開発を行うとともに、ウシ2品種(ホルスタイン、ブラウンスイス)、ヤギ1品種(日本ザーネン)、ヒツジ3品種(サフォーク、コリデール、フライスランド)の初乳に含まれる糖ヌクレオチド、糖リン酸、ヌクレオチドの分析を行った。2品種のウシサンプルからはいずれも糖ヌクレオチドとしてUDP-GalとUDP-Glcが、糖リン酸としてはN-アセチルグルコサミン-1-リン酸が、ヤギサンプルからは糖ヌクレオチドとしてUDP-Gal, UDP-Glc, UDP-GlcNAc, UDP-GalNAcが、糖リン酸としてはN-アセチルグルコサミン-1-リン酸が同定された。サフォークならびにフライスランド2品種のヒツジ初乳からは糖ヌクレオチドは検出されず、ウリジン1リン酸ならびにウリジン2リン酸の2種のヌクレオチドのみが同定されたが、コリデール品種のヒツジ初乳からは糖ヌクレオチドとしてUDP-Gal, UDP-Glc, UDP-GlcNAc, UDP-GalNAcが検出された。このように初乳に含まれる糖ヌクレオチドには種間差と、ヒツジにおいては品種間差が観察された。一方、コリデール品種の初乳に以前同定されているシアル酸を含むオリゴ糖ヌクレオチドは発見されず、オリゴ糖ヌクレオチドの存在には動物の個体差のあることが予想された。 一方、初乳に含まれる糖ヌクレオチドが腸管上皮細胞の増殖に及ぼす効果を解明するため、HIEC-6細胞の培養系に10 μg/mgのUDP-Galを添加し、ポジティブコントロールとしてhEGFを添加した場合や、ネガティブコントロールとしてhEGFを添加しなかった場合との細胞の増殖、定着を比較した。その結果UDP-Gal添加時はポジティブコントロールほどではないが、ネガティブコントロール以上の増殖性が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウシ、ヤギ、ヒツジの初乳における糖ヌクレオチド研究は、1960年代から現在までに世界中で10報以下の学術論文しか見当たらず、初乳におけるその機能の解明はまったく研究されていない。1960年代~1980年代の初乳における糖ヌクレオチドの同定方法は、イオン交換クロマトグラフィーによるそれらの分離後、酸加水分解によるヌクレオチドと単糖の遊離ならびにペーパークロマトグラフィーによる標準物質との移動度に比較に基づく同定によるものであり、同定方法としては不十分でった。この研究では、イオン交換クロマトグラフィーの後に順相系の高速液体クロマトグラフィーによる各成分の分離の後、各磁気共鳴スペクトルによる現代的な構造決定方法を使用しており、ヤギやヒツジの初乳に従来発見された一部の糖ヌクレオチドの存在を確認するとともに、一部の既報の糖ヌクレオチドについては不確実な同定であることを明らかにした。糖ヌクレオチドは通常細胞内で糖鎖合成材料として利用されているが、体液におけるその機能については研究されていない。本研究の結果は、腸管上皮細胞に対して成長因子が添加されない条件においても、糖ヌクレオチドによって増殖促進されることを示唆しており、初乳内の糖ヌクレオチドが家畜の乳仔の成長に及ぼす効果を予想させる。これは糖ヌクレオチドを家畜の成長促進因子として利用するように、今後の飼料素材への開発の期待をいだかせるものである。以上の点において、新規な研究の進捗が認められ、学術論文として論文投稿を行った。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究において、酪農家畜の初乳には4種の糖ヌクレオチド(UDP-Gal, UDP-Glc, UDP-GlcNAc, UDP-GalNAc)、1種の糖リン酸(N-アセチルグルコサミン-1-リン酸)、2種のヌクレオチド(ウリジン1リン酸、ウリジン2リン酸)が含まれることがあきらかになった。また4種の糖ヌクレオチドの中でUDP-Galは、成長因子を添加しなくても腸管上皮細胞HIEC-6細胞の増殖を促進することが示唆された。一方で前年度の実験において、継体回数の多いHIEC-6細胞を培養に使用したため、成長因子を添加したポジティブコントロールと比べて細胞の増殖・定着は十分でなかった。本年度は継体回数の少ないHIEC-6細胞を使用し、各種の濃度の糖ヌクレオチドを使用して、最適な条件でのその増殖・定着刺激効果をあきらかにする。培養系に添加する糖ヌクレオチドはUDP-Gal以外にUDP-Glc, UDP-GlcNAc, UDP-GalNAcを、また糖リン酸としてN-アセチルグルコサミン-1-リン酸、ヌクレオチドとしてウリジン1リン酸あるいはウリジン2リン酸を各々添加し、それぞれの増殖刺激効果について定量的な比較を行う。結果を踏まえて、成長促進剤として飼料への添加に最適な物質の選択と条件をあきらかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に行った成果の発表にかかる経費に、年度をまたいで使用する必要が生じたため。
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