研究課題
本研究は、体細胞核移植(SCNT)に使用されるドナー細胞である胎仔性繊維芽細胞に対し、強制的に「幼弱化(あるいは初期化)」を誘導させ、そのような処置を施された細胞をドナーとするSCNTを試み、最終的にヒトの健康・福祉に貢献する遺伝子改変クローンブタを効率的に作製することを目指した。そのカギとなるのが、ヒストンのDNAメチル化問題である。そこで、CRISPR/Cas9法にてドナーブタ細胞ゲノム内のヒストン遺伝子群のメチル化を促す遺伝子(DNAメチル化転移酵素1, DNMT1)の破壊を試みた。ドナーブタ細胞にはSCNTの成否を判断するためのOct-3/4 promoter + EGFP(緑蛍光タンパク) cDNA遺伝子発現ユニットが予め搭載されている(これを”m4細胞”と称す)。ブタDNMT1遺伝子を標的とするgRNAを設定。これとCas9タンパクとを混ぜ、m4細胞に遺伝子導入を施した。その後、独自開発の選別系にて最終的に生存細胞株を拾った。分子生物学的解析から、その株にはDNMT1の破壊が確認された。次いで、このゲノム編集細胞株をドナーとするSCNTを行った。ドナー細胞が適切に初期化されておれば、SCNT胚の発生も単為発生胚並みに改善されると期待される。結果、クローン胚盤胞への発生率が2倍ほど改善された(~22% vs. ~43%)。更に、クローン胚でのEGFP蛍光タンパク発現が増大した。これらの点は、DNMT1遺伝子の破壊の結果、クローン胚での遺伝子発現状況が幼弱状態のそれにリセットされた可能性を示唆する。以上から、クローンブタ作製の効率化には、ヒストン遺伝子群のメチル化の阻害が重要であるという点が確認された。これにより、クローンブタ作製は加速すると期待される。そして、その効果は医学や農林水産業の振興・発展に貢献すると考えられる。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件)
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