母乳には新生児の健やかな発達に必要となる栄養成分に加えて、未熟な免疫機能を補う生理活性物質が多く含まれている。ラクトフェリンは、母乳中に見出された鉄結合性の糖タンパク質である。ウシやヒトをはじめ、泌乳初期の乳汁に高濃度含有されることが報告されており、母乳とともに新生児に摂取されたラクトフェリンは、腸管内において生育に鉄を必要とする病原性細菌の増殖を抑制する作用を持つことが知られている。加えて、ラクトフェリンには、腸管上皮細胞に対する増殖促進効果や炎症性サイトカインレベルの調節効果などが報告されており、腸管上皮細胞および腸管組織に対して直接的に作用することも予想されている。しかしながら、ラクトフェリンの生物学的機能を仲介する分子機構は不明である。研究代表者は、生体内におけるラクトフェリンの機能発現メカニズムを探索する過程において、ラクトフェリンが細胞内分解システムであるオートファジーを活性化させることを発見した。本研究では、腸管組織におけるラクトフェリンの有益な機能の発現におけるオートファジー活性化の役割を明らかにすることを目的とする。 今年度は、昨年度に引き続きラクトフェリンによるオートファジー活性化の分子機構とその生理学的意義についてラット腸管上皮細胞株IEC-6を用いて調べた。昨年度までにラクトフェリンにより上皮バリア機能が向上することを明らかにしたが、今年度は密着結合の形成に関連するいくつかのタンパク質の発現が増加することを見出し、それらの制御にオートファジー・リソソーム系が関与することを明らかにした。また、発現増加が確認された上記タンパク質の制御因子についても複数の候補を見出した。加えて、生体におけるラクトフェリンのオートファジー活性化効果を検討した。
|