研究課題/領域番号 |
19K06377
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
磯田 典和 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (80615732)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 牛ウイルス性下痢 / 獣医疫学 / リスク評価 |
研究実績の概要 |
2020年度後半から約100農家を巻き込んでフィールド調査を実施してきた。この疫学調査の結果は、当初想定よりもBVD有病率が低かったことから、同じフィールドで調査をさらに半年ほど継続して行っている。現在、フィールドにおける疫学調査の結果を2021年度後半に受け取り、解析を進めている。 北海道十勝地方で発生報告のあった、計16例のBVDの発生について、BVDウイルス陽性牛からのウイルス分離を実施し、そのウイルスの遺伝子系統樹解析を実施した。また、ウイルス遺伝子の関係性を、感染宿主動物の物理的移動との関連性を確認するために、発生確認時に飼育していた感染陽性牛および陰性牛全ての移動を、耳標番号を基にネットワーク解析を実施した。陽性農場15のうち、12農場で陽性であったPI牛は他の施設からの牛の移動が認められた。分離ウイルスの遺伝子解析によると、遺伝子解析でクラスター1bに分類されたウイルスは、大規模なネットワークを構築しそのネットワーク上移動していた。PageRank法を用いた定量的評価法によると、農場における動物の移動数そのものがPI牛のリスクになっていることが判明した。これらの結果から、病気の蔓延とウイルス学的および疫学的分析方法の組み合わせは、ウイルスの感染経路を特定するのに役立つことを証明した。本研究結果は、Hirose et al, (2021), Pathogensとして論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年度に想定してた野外調査の実施は当初研究協力機関との調整が困難となり、代替の研究協力機関と2020年度から野外調査を実施する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大のため、2020年度および2021年度実施を予定していたフィールド調査を延期せざるをえなくなり、現在は1年ほど遅れて実施をしている。当初の研究計画から1年半ほど遅れている状況である。 現在、当初の計画では2回に分けて行う予定であったフィールド調査を、先方の協力により大規模なフィールドを用いた調査として行っている。しかし、想定よりも低い疾病浸潤率から、当初予定していた動物移動毎によるPI牛導入リスクの定量(実験3)および集団免疫がBVDリスク導入に与える影響の確認(実験4)の内容については、当初計画の内容をさらに変更した上で2021年度および2022年度も続けて実施していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
現地で採取したデータの解析を継続する。現地では飼育牛の移動をモニタリングしながら、約1000頭の牛から生体サンプルを採取しBVDウイルスの検出を行っているが、陽性数はそれほど多くはなかった。サンプル採取期間の延長を行う一方で、現行のデータでは事前に推定した陽性率よりも大幅に低いことによる統計学帰無仮説の確実性を担保できないため、事前に設定した作業仮説の枠組みのなかで、小数の陽性数でも移動リスクを想定できるような疫学評価の方法について変更を検討する必要がある。そのためには動物移動に関する農家の二次的な疫学的な情報(農家の形態や動物移動に係わる農場主の知識や考え方)の取得についても検討する。 現在までに収集したデータおよび追加で取得したい疫学データを組み合わせ、当初計画からは限られた範囲となるが、動物の移動に伴うBVDのリスクの推定について何かしらの知見を得るように解析結果をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度より新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、予定していたフィールド調査が大幅に遅くなった。当初2020年に予定していた活動を2021年度に実施できたため、2021年度で本研究課題を終了させずに1年延長させ、当初2021年度に予定していた内容を2022年度に継続する予定である。 2022年度は得られたフィールド調査の結果をまとめ、解析を行う。解析結果を関連学会にて発表し、学術論文としての発表を検討しており、その費用に充てる予定である。また、研究データ内容に関する意見交換とデータに関する飼育牛の状態やBVDの疫学の実際について研究協力機関と意見交換を行うべく、現地出張の費用を検討している。
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