レジオネラが持つIV型分泌装置、並びにそれを介して分泌されるエフェクターと呼ばれるタンパク質は、菌の細胞内寄生に必須な主要病原因子である。原生生物などの自然宿主との関係性を構築する過程で、こうした因子を獲得したと考えられる。そこで本研究では、この膨大な数のエフェクターの機能や存在意義を探索する目的で、原生生物宿主を用いた実験系による解析を行った。 原生生物との穏やかな共生関係を構築することが可能なレジオネラ株においては、原生生物宿主モデルとして用いたゾウリムシ及びテトラヒメナにおいて、IV型分泌機構はその細胞内共生の維持に必須であった。また、宿主への傷害性が高く、細胞内共生関係が構築されないレジオネラ株においては、ゾウリムシ宿主への細胞毒性にIV型分泌機構は関与しなかった一方で、テトラヒメナ宿主への細胞毒性はIV型分泌機構に依存的であった。IV型分泌機構の機能や依存度は均一ではなく、原生生物宿主の種や株によって大きく異なることが示唆された。さらに、原生生物宿主の細胞内という特殊な環境下において、菌のクオラムセンシング機構が種々のエフェクターやIV型分泌装置自体の発現を制御しているのではないかと考え、LqsA欠損株を用いた解析も行った。結果、一部の因子の発現がクオラムセンシング機構の制御下にあることが明らかとなった。 また、宿主側因子の探索を目的に、種、接合型、シンジェンが異なる数十株のゾウリムシを用いた比較解析を行った。レジオネラの共生に関与する宿主側因子は同定できなかったが、形態学的に区別が困難なゾウリムシを簡便に分類・同定する遺伝学的手法の構築に成功した。 本研究結果は、レジオネラが自然環境中において多種多様な原生生物宿主との関係性を柔軟に成立させているメカニズムの解明に繋がるものであり、これらを応用することで、新たなレジオネラ感染制御法が確立されることが期待できる。
|