研究課題/領域番号 |
19K06385
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
矢吹 映 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 教授 (10315400)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 犬 / 猫 / 糸球体腎炎 / 腎生検 |
研究実績の概要 |
本年度は、症例収集と病態解析を中心に研究を行なった。糸球体疾患が疑われて腎生検の適応となった症例は3症例(犬2例、猫1例)と例年よりも少なかった。全ての症例において、5種類の染色(ヘマトキシリン・エオシン(HE)、過沃素酸シッフ(PAS)、過沃素酸メセナミン銀(PAM)-HEおよびマッソン・トリクローム(MT)染色、コンゴ・レッド)による光学顕微鏡観察、新鮮凍結切片による蛍光抗体法(IgG, IgA, IgMおよびC3)、透過型電子顕微鏡観察を実施した。 解析の結果、犬では1例が免疫複合体性糸球体腎炎、1例が尿細管間質線維症をともなう非免疫複合体性糸球体腎症と診断された。免疫複合体性糸球体腎炎の犬では、管内増殖病変が顕著であり、特徴的なワイヤーループ病変も認められた。蛍光抗体法では、IgGおよび補体C3の沈着が高度であり、電子顕微鏡では糸球体の内皮下にdens bodyの沈着が認められた。このような所見はヒトのループス腎炎に類似していた。ループス腎炎は犬では報告のない糸球体腎炎であり、本症例は獣医学的に貴重な症例であった。猫の1例は免疫複合体性糸球体腎炎が疑われた。しかしながら、免疫複合体の沈着が軽度であり、確定診断には電子顕微鏡によるさらなる解析が必要と思われた。 免疫組織k学的解析については、サイトケラチン、ビメンチン、α平滑筋アクチンについて解析を進めている。現在のところ、全症例の解析が終了していないため糸球体疾患の進行度やタイプによる違いは明らかでなく、次年度も更に検索を続けていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、例年に比べて糸球体腎炎が疑われる症例数が少なく、腎生検の適応となった症例が少なかった。しかしながら、診断結果から獣医学領域では報告のない貴重な症例に遭遇し、その解析は多くの時間を割いて行った。その結果、少数例ながら、得られた成果は大きかった。本症例については、日本小動物獣医学会九州地区大会で症例報告を行い、連合会著賞を受賞した。これらの成果から、本年度は概ね順調な研究成果が得られたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も継続的に症例の集積を行なう。そのために、持続性の蛋白尿など糸球体疾患が疑われる症例については積極的に腎生検による病態解析を行なう。学術的に貴重な症例については積極的に学会で発表する。さらに、集積した症例の腎臓組織を用いてα平滑筋アクチン、E-カドヘリン、サイトケラチン、ビメンチン、VEカドヘリン、eNOSなどの免疫組織化学的解析を行なう。それにより犬と猫の糸球体疾患における上皮間葉転換および内皮間葉転換のメカニズムの一端を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算はほぼ計画通りに執行されたが、831円の少額が残った。この少額は印刷代などとして使用する計画であったが、予定されていた印刷などが次年度に持ち越されたため、未使用のまま残った。
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