研究実績の概要 |
犬と猫の糸球体疾患と腎臓の上皮間葉転換に関する研究として、本年度は下記の解析を行った。 症例研究:糸球体疾患が疑われ、腎生検もしくは病理解剖の適応となった症例は犬で3症例と例年よりも少なかった。解析のためには、5種類の染色(ヘマトキシリン・エオシン(HE)、過沃素酸シッフ(PAS)、過沃素酸メセナミン銀(PAM)-HEおよびマッソン・トリクローム(MT)染色、コンゴ・レッド)による光学顕微鏡観察、新鮮凍結切片による蛍光抗法(IgG, IgA, IgMおよびC3)、透過型電子顕微鏡観察を実施した。解析の結果、3例はすべで巣状糸球体硬化症による非免疫複合体性糸球体腎炎と診断された。 上皮間葉転換のメカニズムに関する研究:トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)に関する解析を行った。TGF-β1については、近年、猫の慢性腎臓病の進行に深くかかわることが注目されており(Lourenco et al, 2020)、早急な解析の必要性から、猫についての解析を進めた。慢性腎臓病の猫13例の腎臓を病理組織学的に解析したところ、糸球体疾患はすべて糸球体硬化症であった。免疫組織化学的解析では、TGF-β1の発現は主に遠位ネフロンに認められた。定量的解析では、この遠位ネフロンのTGF-β1の発現が糸球体疾患および血漿クレアチニン値の上昇と有意に相関していた。また、近位尿細管や血小板においてもTGF-β1の発現が認められ、これも血漿クレアチニン値の上昇と有意に相関していた。猫の慢性腎臓病で腎臓組織に上皮間葉転換が起こることは我々の先行研究で証明されており(Yabuki et al, 2010)、今回明らかにされた腎臓組織のTGF-β1の発現が上皮間葉転換のメカニズムに関与していることが示唆された。この研究成果は学術論文として報告した(Uehara et al, 2022)。
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