研究課題/領域番号 |
19K06387
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
向本 雅郁 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (80231629)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鶏壊死性腸炎 / ウエルシュ菌 / NetB / α毒素 / 非定型β2毒素 / LMH |
研究実績の概要 |
今年度は壊死性腸炎発症鶏から分離されたウエルシュ菌(CNEOP004株(netb+)およびCNEOP003株(netb-))さらに牛壊死性腸炎分離株(CP-23)の鶏肝癌由来株化細胞(LMH)、ラット小腸上皮細胞由来株(IEC-6)およびマウスマクロファージ由来株(RAW264.7)との共培養時におけるnetb、α毒素遺伝子(cpa)および非定型β2毒素遺伝子(a-cpb2)の発現動態を解析した。NetBに対する唯一の感受性細胞であるLMHとの共培養でのみnetbの発現が誘導されたが、IEC-6およびRAW264.7では全く誘導はみられなかった。菌の増殖は接触、非接触で差は見られなかったが、netbはLMHとの共培養において接触時と比較して非接触時の方がmRNAの発現量は高かった。このことから、NetBの産生(netb発現)には種特異性が大きく関係しており、細胞から産生される何らかの液性因子が重要な役割を担っていることが示唆された。cpaおよびa-cpb2は、LMHとの共培養において、接触の有無および菌株間で発現量に差は認められなかった。一方、IEC-6との共培養においても、cpaおよびa-cpb2の発現誘導がみられたことから、cpaおよびa-cpb2の発現には宿主における種の違いは関係ないことが示唆された。NetBとα毒素の産生調節機構は異なっており、この違いが菌株間における感受性動物の違いに影響しているものと考えられる。 以上のことから、NetB産生菌による鶏壊死性腸炎の発症には、NetBの動物種間による病原性の違いだけでなく、毒素産生誘導における動物種間の違いが大きく関係していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書に記載した2019年度の研究計画において、「感受性細胞との共培養によるα毒素、NetB、β2毒素遺伝子の発現動態」に関する研究については3種類のウエルシュ菌を用いて、共培養時の各毒素遺伝子の発現動態を調べた。壊死性腸炎発症鶏から分離したNetB産生株においてnetb遺伝子の発現が共培養時の細胞に対して由来臓器よりもむしろ由来宿主に依存し、鳥類由来細胞でのみ発現誘導されることを明らかにすることができた。しかしながら、2019年度に予定していたnetb遺伝子欠損株の作製についてはノックアウト方法について検討段階でいまだ作製には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は引き続きnetb欠損株の作製を行い、一部、欠損株の性状解析まで実施する予定である。 「感受性細胞との共培養による細胞致死活性に対するα毒素、NetB、β2毒素の毒力解析」として各毒素の感受性細胞への細胞致死活性に対する相乗効果を解析する。感受性細胞であるLMH細胞を用いて、精製毒素またはリコンビナント毒素を用いて、NetB、α毒素、β2毒素を様々な組み合わせで細胞に接種した時の致死活性の違いをMTT法により測定することで毒素同士の致死活性に対する相乗効果を解析する。 鶏壊死性腸炎の発症原因である小腸上皮細胞壊死への菌株間の違いや関与する毒素を解明するため、培養した初代鶏胚小腸上皮細胞を用いてLMH細胞で得られたデータをさらに詳細に解析することにより鶏壊死性腸炎の発症メカニズムを明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウエルシュ菌のnetb遺伝子欠損株作製が予定していた段階まで進めなかったため。予定していた試薬(キット)を2019年度は購入を見合わせたた。そのため助成金が次年度持ち越しとなった。2020年度は引き続き欠損株の作製を行うため、持ち越した助成金はキットの購入に充てる予定である。
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