研究課題/領域番号 |
19K06387
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
向本 雅郁 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (80231629)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鶏壊死性腸炎 / ウエルシュ菌 / 炎症反応 / 腸管上皮細胞 / LMH / サイトカイン |
研究実績の概要 |
今年度は壊死性腸炎発症鶏から分離されたG型ウエルシュ菌(CNEOP004株)を用いて、IEC-6細胞(ラット腸管上皮由来細胞株)およびLMH細胞(鶏肝癌由来細胞株)におけるサイトカイン発現の変化をリアルタイムRT-PCRにより分析・比較することで、鶏壊死性腸炎発症における腸管特異的・種特異的な炎症反応の動態解析を行った。 IEC-6細胞にG型菌を接種した結果、全てのサイトカインmRNA発現においてG型菌の菌数および反応時間に比例して、炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-6、TNF-αは発現量上昇が示唆された。一方、抗炎症性サイトカインであるIL-10、TGF-βは有意な発現上昇が認められなかったが、TGF-βの発現量はβ-actinと同等であったため恒常的に一定量発現していることが示唆された。さらにMTS法による致死率測定結果と合わせて、6時間反応によって炎症が起こり、24時間反応させる間に死へと転帰していくことが示された。 LMH細胞とG型菌との混合培養の結果、IEC-6細胞と比較してより短時間、より少ない菌数で炎症性サイトカインの発現量上昇が認められ、抗炎症性サイトカインでも有意な発現量上昇が認められ、またMTS法により、反応時間中ほとんどの細胞は死滅していなかった。このことから、肝臓由来のLMHでは炎症性サイトカインだけでなく抗炎症性サイトカインも有意に上昇しており、細胞死に至らず、炎症と抗炎症が拮抗している段階にあることが推測でき、これらのことを踏まえて、小腸上皮由来のIEC-6細胞の方がG型菌との反応によって炎症が強く誘起されており、鶏壊死性腸炎におけるG型菌の種特異性だけではなく、腸管特異的なサイトカイン誘起が壊死性腸炎発症に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は感受性細胞との共培養によるα毒素、NetB、β2毒素遺伝子の発現動態について3種のウエルシュ菌を用いて、各毒素遺伝子の発現動態を調べた。壊死性腸炎発症鶏から分離したG型菌においてnetb遺伝子の発現が共培養時の細胞に対して由来臓器よりもむしろ由来宿主に依存し、鳥類由来細胞でのみ発現誘導されることを明らかにすることができた。2020年度はG型菌と混合培養したときの宿主細胞側の反応、特に炎症に関わるサイトカインの発現動態について解析を行った。炎症性サイトカインの発現は特に小腸上皮細胞株で高く惹起されたことから、G型菌による炎症は腸管において起こりやすいことを明らかにした。しかしながら、NetBの本病に対する役割について解析するためのnetB遺伝子欠損株の作製についてはいまだ完成に至っていない。今年度はNetB毒素の関する論文を日本獣医学雑誌に掲載した。
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今後の研究の推進方策 |
鶏腸管に対するG型菌による炎症誘導機構について詳細にかつ確実に解明するためには鶏の腸管上皮細胞を用いた解析が必須である。菌側および宿主側の炎症誘導に関わる要因についての解析方法は2年間で確立されたので、鶏胚由来の腸管上皮細胞初代培養系を用いてLMH細胞やIEC-6 細胞と同様の解析を実施し、これらの細胞と比較することによりG型菌の鶏腸管に対する病原性および発現機構を明らかにしていく予定である。今回着目した3種類の毒素(NetB、α毒素、β2毒素)の単独での反応だけでなく、様々な組み合わせで宿主細胞と反応させたときの致死活性やサイトカインの発現を解析することにより、病原性発現に対してどのように相互作用しているのかを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
鶏胚由来小腸上皮細胞初代培養の作製に至らなかったため、必要な試薬の購入を今年度は見合わせた。また、G型菌のnetb欠損株作製も予定通りに進まなかったため、予定していた試薬の一部を購入しなかった。2021年度は初代培養の作製および欠損株の作製に必要な試薬等の購入に持ち越した助成金を充てる予定である。 出席を予定していた学会がすべて中止あるいはオンライン開催となったため、今年度は旅費の支出が生じなかった。
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