2021年度は、昨年度に引き続きゲノム編集によるOMV高産生大腸菌株の作出を試みた。遺伝子欠失株の作製には λ Red recombinaseを用いる系を利用した。欠失させる標的遺伝子として、外膜とペプチドグリカン層の架橋の形成に関わるnlpI、およびペリプラズム腔内でシャペロンとして働くプロテアーゼであるdegPを選択した。大腸菌UT5600株のゲノムDNAから、それぞれ標的遺伝子の 5’、3'-flanking領域の塩基配列を解析した。得られた情報を基に、カナマイシン耐性遺伝子の両側に部位特異的組換え酵素の認識配列、flanking 領域の相同配列を組み込んだ直鎖DNA断片を作製した。Red recombinase発現プラスミドベクターとしてpKD46あるいはPSIJ8を形質転換した大腸菌UT5600株にRed recombinaseを発現誘導後、それぞれの標的遺伝子に対する直鎖DNA断片を、昨年度のおおよそ20倍量導入するとともに、回復培養を16時間に変更したところ、コロニーPCRにより標的遺伝子の相同組換えが確認された。さらに、カナマイシン耐性遺伝子を部位特異的組み換えにより除去することで、nlpI、degP遺伝子欠失大腸菌株を作製することができた。サルモネラワクチン候補抗原fliCを大腸菌表層、あるいはペリプラズム腔にそれぞれ発現するプラスミドベクターを用いて、UT5600株および遺伝子欠失株を形質転換し、OMVの収量を評価したところ、いずれの遺伝子欠失株においてもUT5600株と比較して増加していた。透過型電子顕微鏡、SDS-PAGE、Western blottingおよびProtease accessibility assayを用いて、OMVの形態学的な変化、fliCの発現・局在について評価したところ、UT5600株と遺伝子欠失株で変化は認められなかった。
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