研究課題
イヌの悪性黒色腫(メラノーマ)は口腔内悪性腫瘍で最も発生頻度が高く、また、致死的な疾患である。腫瘍増殖の基となるがん幹細胞は、腫瘍転移や再発の主な原因となる。がん幹細胞周囲の微小環境中に発現する炎症反応は、悪性化に係わる因子として非常に重要である。本研究はイヌメラノーマにおける抗炎症-抗腫瘍効果を明らかにすることを目的とし、腫瘍微小環境中で発現する炎症反応を起こす腫瘍特異的活性化経路の探索を行った。特に、内因性炎症性サイトカインであるインターロイキン1β(IL-1β)によるシグナル伝達機序について検討し、前年度までメラノーマ細胞のIL-1β誘導性COX-2発現における典型的MAPキナーゼ経路のERK1/2経路、また、新規にERK5経路の関与を明らかにした。本年度は、IL-1β誘導性のマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)の発現と分泌について検討した。IL-1βによるメラノーマ細胞への刺激はMMP-3の分泌とmRNA 発現、遊走を促進したが、MMP-3阻害剤はそれらを抑制した。そのことから、メラノーマ細胞の転移にMMP-3が関与していると示唆された。IL-1β誘導性MMP-3 mRNA発現は転写因子の1つであるNF-κBの阻害剤で抑制された。IL-1β刺激細胞においては、NF-κB p65及びp105の活性化が認められた。さらにsiRNAを用いてノックダウン細胞を作成したところ、IL-1β誘導性のMMP-3 mRNA発現はp65ノックダウン細胞では阻害されたが、p105ノックダウン細胞では阻害されなかった。従来、p105を前駆体としてp50を供給し、p65とヘテロ二量体としてNF-κBは機能するとされているが、今回の結果は異なった転写制御が存在することを意味する。さらに上流のERK経路との関連を明らかにすることにより効果的な対メラノーマ治療開発に繋がる可能性がある。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
PLoS One
巻: 16 ページ: 1-18
10.1371/journal.pone.0259489