研究課題/領域番号 |
19K06390
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
落合 和彦 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (30550488)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イヌ / 前立腺がん / アンドロゲン受容体 / REIC/Dkk3 / SGTA |
研究実績の概要 |
近年、日本人男性で前立腺がんの新規罹患数が増加しているが、本疾病を自然発症する動物はヒトとイヌに限られるという報告がある(ILAR J, 2014)。多くの雄イヌは飼育を容易にする目的で去勢術が施される。これにより、体内アンドロゲンレベルは著減し、雄性生殖器疾患の発症率は減少するが、しばしば前立腺がんが発生する。アンドロゲン受容体シグナル(ARシグナル)非依存環境下で生じた前立腺がんの多くは、ARシグナル伝達制御を目的としたホルモン療法に抵抗性を示すため、予後が非常に悪い。これは、ヒト前立腺がんに対するホルモン療法実施過程の一部に生じる難治化病態と近似しており、イヌ前立腺がんの発症・難治化メカニズム解明の意義は大きい。申請者はこれまでに、その一端がSGTAにあることをヒトとイヌで証明した(Oncotarget, 2016; BMC Vet Res, 2017)。 上記研究の中で、イヌAR全長をクローニングし、各種実験に供してきたが、ARにはN末端付近にグルタミン(Q)の繰り返し配列が存在し、その数が短いほど前立腺がんに罹患し易いというデータがヒトで報告されている(Cancer Res, 2000)。イヌでも過去に前立腺がん症例と対照群の間でPoly Q配列長に有意差が見られるという報告があったが(J Vet Intern Med, 2008)、イヌARシグナル伝達とPoly Q配列長の相関について実験的に検証した例はない。そこで、本研究ではイヌARに2か所存在するPoly Q配列を遺伝子工学的手法により長さを増減させ、細胞生物学的手法を用いてARシグナル伝達機構におよぼす影響を精査する。これにより、イヌARのアンドロゲン感受性について明らかにするとともに、アンドロゲン非存在下でのARシグナル伝達機構の一端を解明し、イヌの難治性前立腺がん発症機構に資することを目的とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画1年目では、イヌアンドロゲン受容体(AR)のN末端に存在するグルタミン繰り返し構造(poly Q)配列に注目し、繰り返し数の数的多型がARシグナル伝達強度におよぼす影響について研究を展開した。具体的には、当研究室でクローニングしたイヌARを鋳型として、N末端側のQ×10およびQ×23を欠損させたクローン(del Q×10、del Q×23)を作製した。さらに両者を欠損させたクローン(del Q×10+23)も作製した。その後、WTとdel Q×10、del Q×23およびdel Q×10+23をヒトAR非発現前立腺がん由来細胞株PC3に発現させ、ARシグナル伝達強度に比例して発光するルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。変異導入の結果、del Q×10、Q×23およびQ×10+23を欠損させたクローンの作製に成功した。PC3細胞を用いたイヌAR WTとdel Q×10、del Q×23およびdel Q×10+23のARシグナル伝達強度測定の結果、アンドロゲン誘導体ジヒドロテストステロン添加時のシグナル伝達強度はWT<del Q×10<del Q×23<del Q×10+23の順となった。 イヌ前立腺がん罹患個体を対象として、AR Poly Q配列長を調査した過去の報告において、腫瘍罹患個体が健常個体に比べpoly Q配列が短い傾向にあった。今回の実験結果は過去の統計学的調査結果を実験的に裏付けるものであり、イヌAR分子構造とアンドロゲンシグナル伝達効率、さらには前立腺がん発生機構を関連付ける基礎的知見となり得る。今後は、実際の個体で起こり得る範囲でのdel Qクローンを作製し、より精緻に検証する必要があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究機関において、イヌARのN末端に存在するpoly Q配列の有無により、ARシグナル伝達強度が大きく変化することが明らかとなった。今後は、生理的な繰り返し数多型の範囲で、一つずつQの数を変化させたクローンを作製し、ARシグナル伝達におよぼす影響を検討する。また、イヌの前立腺がんに難治性症例が多い原因を明らかにすべく、体内アンドロゲンレベル現象時のARシグナル伝達機構に影響をおよぼす因子の特定についても挑戦する。ARは通常時細胞質に局在し不活性状態である。これを保持するたえにHsp70, 90等のシャペロンおよびコシャペロンが機能している。これらの構成要素に着目し、アンドロゲン非存在下でAR成熟に伴う核移行を促し、ARシグナル伝達機構発現に関与する分子を特定したい。具体的にはAR非発現ヒト前立腺がん株化細胞PC3にイヌ由来各種コシャペロンおよびARを強制発現し、ARシグナル伝達強度を精査する。また、過去の研究成果により得られたREIC/Dkk-3がAR成熟におよぼす影響についても併せて精査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度直接経費申請額は当初1,300,000円であった。そのうちの大部分を物品費として使用予定であったが、他の学内研究費等により共通利用の消耗品費を充当することができた。その為、実使用額は1,084,576円となり、215,424円を繰り越した。2020年度については、当初1,000,000円の直接経費を計上していたが、繰り越し金額を加算し、より機動的に研究を展開する予定である。用途は2019年度分と変わらず物品費として研究遂行に必要な試薬等の消耗品購入に充てる予定である。
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