研究実績の概要 |
アンドロゲン受容体シグナル(ARシグナル)非依存環境下で生じた前立腺がんの多くは、ARシグナル伝達制御を目的としたホルモン療法に抵抗性を示すため、予後が非常に悪い。これは、ヒト前立腺がんに対するホルモン療法実施過程の一部に生じる難治化病態と近似しており、イヌ前立腺がんの発症・難治化メカニズム解明の意義は大きい。申請者はこれまでに、その一端がSGTAにあることをヒトとイヌで証明した(Oncotarget, 2016; BMC Vet Res, 2017)。 上記研究の中で、イヌAR全長をクローニングし、各種実験に供してきたが、ARにはN末端付近にグルタミン(Q)の繰り返し配列が存在し、その数が短いほど前立腺がんに罹患し易いというデータがヒトで報告されている(Cancer Res, 2000)。イヌでも過去に前立腺がん症例と対照群の間でPoly Q配列長に有意差が見られるという報告があったが(J Vet Intern Med, 2008)、イヌARシグナル伝達とPoly Q配列長の相関について実験的に検証した例はない。そこで、本研究ではイヌARに2か所存在するPoly Q配列を遺伝子工学的手法により長さを増減させ、細胞生物学的手法を用いてARシグナル伝達機構におよぼす影響を精査した。その結果、イヌのARにおいてもPoly Q配列長によりARシグナル伝達の強度が変動することが明らかとなった。本申請課題では、この成果をOchiai et al., 2021 Vet Comp Oncol, 19(2):399-403として発表した。この成果により、イヌARの構造と前立腺がん発症機構についての関連性解明を研究する有用なツールが構築された。
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