研究課題
癌組織は自己複製能、多分化能を持つ癌幹細胞を根源とした不均一かつ多様な細胞集団を形成し、癌幹細胞は癌発症、再発、薬剤抵抗性に重要な役割を果たしている。犬の乳癌は、ヒトや猫とは異なり、筋上皮細胞増殖および骨・軟骨増殖を示す特有な癌組織を形成する。本研究の目的は、癌幹細胞を基軸とし、犬の乳癌の病態発生機構の解明および癌幹細胞を標的とした新規治療法の基盤の構築である。それゆえ、生体で生じる癌組織を模倣した器官様構造(オルガノイド)および犬由来乳癌組織移植モデルマウスを作出し、これらの特性解析および薬剤スクリーニングを遂行する。乳癌幹細胞は、自己複製能を有する癌幹細胞を効率よく濃縮できるスフェアアッセイによる長期培養法、癌幹細胞マーカーを用いたフローサイトメトリー解析により同定する。本実験系はこれまでの研究で確立されている。一方、オルガノイド培養は上皮系腫瘍に極めて有用であり、かつ癌細胞の特性を失わず、微小環境因子依存性にオルガノイドを形成することができる。犬の乳腺からオルガノイド培養を実施し、形態学的解析、腺上皮および筋上皮マーカーによる免疫組織学的解析、抗癌剤感受性試験を検討した。2020年度は、外科切除材料および初代培養細胞を用いてオルガノイド培養を実施し、形成されたオルガノイドを3回継代し、オルガノイドの免疫染色を実施し、腺上皮様および筋上皮様細胞の存在を検証した。外科切除材料および初代培養細胞由来のオルガイノイドにおいて腺上皮様、筋上皮様細胞の存在が確認された。またオルガノイドは抗がん剤(ドキソルビシンなど)の濃度に依存し、数およびサイズの減少が観察された。現在、オルガノイドの特徴解析およびオルガノイドバンクを進めている。
3: やや遅れている
オルガノイドの培養系は樹立できているが、研究材料である外科切除乳腺組織のサンプル数が少ない現状にある。
研究計画通り遂行予定である。昨年度に引き続き、オルガノイド培養を実施し、形態学的、免疫組織学的特徴を明らかにする。抗癌剤および候補阻害剤のオルガノイド形成に与える影響、がん幹細胞の自己複製能に与える影響を検討し、移植マウスにおける抗腫瘍効果についても検討する。
今年度は学会の現地開催からオンライン開催に変更され、計上した旅費は使用することがなかった。またサンプルが計画通りに収集することができず、それに伴い消耗品購入も減少した。今後はサンプル確保をさらに積極的に行い、研究が効率よく実施する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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