研究課題/領域番号 |
19K06393
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
氏家 誠 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (50415478)
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研究分担者 |
袴田 航 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (10333337)
松山 州徳 国立感染症研究所, ウイルス第三部, 室長 (90373399)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コロナウイルス、ドラッグリポジショニング、 / ドラッグリポジショニング / 抗ウイルス薬 |
研究実績の概要 |
コロナウイルス(CoV)は、ヒトや動物に重篤な疾病を引き起こすウイルスを多む。2020年からは、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が世界的に猛威を振るっており、未だ収束の気配は見えない。現在、ワクチン接種は始まったものの、治療薬の開発も続いており、特に、今後も動物由来の新しいCoVがヒトに伝播する可能性があるため、幅広いCoVに対する治療薬の開発が必要である。 CoVは、宿主細胞に感染すると、宿主由来の2重膜を変化させてDMVsと呼ばれるCoV専用の複製工場を形成する。DMVsはCoVの増殖に必須であることから、魅力的な創薬ターゲットであるが、DMVs形成を阻害する化合物は、ほとんど見つかっていない。報告者は、昨年度に、承認済み医薬品のステロイド剤のシクレソニドが、CoVのDMVs形成を阻害しMHVやMERS-CoV及びSARS-CoV2などの幅広いCoVに対して抗ウイルス活性を持つことを示した。さらに、MERS-CoVの解析からシクレソニドが特定の蛋白質に作用して抗CoV活性を示すことを明らかにした。 そこで本年度は、現在流行中のSARS-CoV2を使用して、シクレソニドの抗CoV活性のメカニズムを解析した。シクレソニドに対するSARS-CoV2耐性ウイルスの分離と解析を行ったところ、耐性ウイルスはDMVs形成に関与するNSP3又はNSP4に変異が見られた。この事から、シクレソニドは、NSP3又はNSP4に作用しDMVs形成を阻害する事で強い抗CoV活性を発揮することが示唆された。一方、シクレソニドはin vitroの評価では強い抗CoV活性が見られたものの、残念ながら、臨床試験では治療効果に有意な差は見られなかった。このため来年度からは、報告者らが発見した抗CoV活性をもつ新たな医薬品(AGI)を中心に、解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、3年計画となっており、研究期間中に2種の承認済み医薬品(小胞体αグルコシダーゼ阻害薬:AGI及び、一部ステロイド剤:SAIDs)に見られた CoVのDMVs形成阻害メカニズムの解明、その医薬品のCoV治療薬への応用、及び新規AGIの開発とSAIDsのさらなる検索を行う事を計画していた。当初は、2種の医薬品の解析を並行して行う予定であったが、初年度にステロイド剤のシクレソニドに強い抗SARS-CoV2活性が見つかり、さらにシクレソニドが新型コロナの治療薬として臨床応用・実用化されることとなった。このため、今年度は、現在流行中のSARS-CoV2に対するシクレソニドの抗CoVメカニズムに焦点を当てて研究を行った。この結果、シクレソニドはDMVs形成に関与するNSP3又はNSP4に作用する事で強い抗SARS-CoV2活性を示すことが明らかとなった。一方、in vitroで見られたこの抗ウイルス活性は、残念ながら、臨床試験では認められなかった。以上の事から、シクレソニドに関しては当初の予定以上に研究計画が進んだが、もう一方の候補医薬品であるAGIの進捗がほどんどなかったため、進捗状況を「②おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、シクレソニドの抗SARS-CoV2活性の評価とその抗CoVメカニズムを明らかにすることができた。しかしながら、臨床試験ではシクレソニドの新型コロナに対する有意な治療効果を認めることが出来なかった。このため、シクレソニドを初めとする抗CoV活性が見られた一部のSAIDsの解析は本年度でいったん終了することとした。来年度は、報告者が発見した抗CoV活性を持つ新たな承認済み医薬品であるAGIに関して、本格的な解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ渦のため、年度内に納品予定であった各種プラスチック消耗品が2か月以上の遅れ、または納期未定が生じ、やむを得なく繰り越し処理とした。繰越金は、主に各種プラスチック消耗品の購入に使用する。
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