2013年度に京都市で捕集したフタトゲチマダニから分離したトゴトウイルス(THOV) Hl-Kamigamo-25株(WT-THOV)はマウスに病原性を示さなかった。一方、WT-THOVをマウス肝臓で20回継代したマウス馴化株(MA-THOV)は、重篤な肝臓障害を伴う致死的な感染を引き起こした。このマウスへの病原性は、MA-THOVのクローンウイルスでも維持されていた。両ウイルスのゲノム遺伝子配列を比較解析したところ、ウイルスRNAの転写・複製に関わるPB2遺伝子に1塩基(L92P:アミノ酸配列の92番目のアミノ酸がWT-THOVがLであるのに対し、MA-THOVではP)、細胞への吸着と侵入に関わるGPに2塩基(H51YおよびI208L)のアミノ酸変異をともなう置換が認められた。さらにウイルスの構造蛋白質の1つであり、免疫回避に関わるMLに1塩基(S166N)の置換が認められた。これらの置換(変異)は親ウイルスであるMA-THOVにも認めらており、MA-THOVのマウスへの病原性に関与しているものと考えられた。次に、どの変異がマウスへの病原性に関与しているのかを解析する方法について検討した。PB2のウイルスRNA合成活性は、以前に構築したTHOVのMini-genome転写アッセイ系の予備実験で確認できることが分かった。また、GPの細胞への吸着と侵入効率は、GP発現細胞での細胞融合活性を調べることで評価可能であり、MLのインターフェロン阻害活性は、インターフェロン遺伝子のプロモーター活性を調べつことで評価できるものと考えられた。今後は、これら各蛋白質の機能解析法を用いて、WT-とMA-THOVで確認された変異の機能解析を行う予定である。しかし最終的に、マウスへの病原性に関与する変異を導入した組換えウイルスを用いた解析が必要である。
|