研究課題/領域番号 |
19K06396
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
高橋 透 岩手大学, 農学部, 教授 (20355738)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クロモグラニン A / 組み替え発現 |
研究実績の概要 |
2019年度は完全長型のクロモグラニン A(CHGA) の生理活性の探索と妊娠期における役割を解明する事を目的として研究を実施した。完全長型のCHGAタンパク質を大腸菌の組換え発現系で発現させた。組換えタンパク質はN末端側にポリヒスチジンタグを付加した融合タンパク質として発現させたが、全てが不溶性封入体の沈澱画分として発現したためにこれを尿素で可溶化したのちにニッケルキレートカラムで精製してアルギニン存在下で尿素濃度を漸減させる透析でタンパク質をリフォールディングした。この組換えタンパク質は分子量62kDaのタンパク質であり、ウェスタンブロットの結果抗His抗体と本研究で作成した抗ウシCHGA抗体の両者によって認識された。しかし得られた組換えタンパク質は凍結保管中に沈殿し、再可溶化が困難であった。 そこで大腸菌とは異なるホストを用いた発現系を探索し、ブレビバチルス属の細菌によるCHGAの組換え発現を行って精製タンパク質を得た。完全長タンパク質を発現させるようにベクターをデザインしたにも関わらず、発現した組換えタンパク質はウェスタンブロってイングで70kDaと60kDaの2本のバンドが認められ、いずれも抗His抗体で認識されたことから、精製された組換えウシCHGAはC末端側が切断された可能性が考えられたので、C末端側の68アミノ酸を除いた短縮型のCHGAを発現するベクターを構築して組み替え発現させたところ、60kDaのタンパク質として発現することが確認された。以上の成績から、ウシCHGAを原核生物の発現系で組換え発現させると、翻訳後修飾によってC末端がプロセッシングされることが示唆された。また、牛の子宮還流液をサンプルにしたウェスタンブロッティングでは抗CHGA抗体に反応する分子量60kDaのタンパク質が検出され、牛の体内にも短縮型のタンパク質が存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は大腸菌による組換え発現を試みたが、組換えタンパク質そのものは発現したものの、精製後のリフォールディングがうまくいかず、生物活性検索に供するタンパク質標品が得られなかった。そこで発現ホストを変更して組み替え発現を試みたところ成功し、完全長型とC末端短縮型の2種類のタンパク質が発現した。また、生体サンプルを用いたウェスタンブロットの結果、C末端短縮型に相当するタンパク質を確認したことから、C末端の68残基を欠く短縮型タンパク質を発現させたところ、完全長のコンストラクトを発現させて確認される短縮型タンパク質と差のないサイズの組換えタンパク質を得ることができた。ウシ子宮内に分泌されるCHGAタンパク質は短縮型である事を考慮すると、今年度の研究で得られた、1. 翻訳後にプロテアーゼ切断を受ける脆弱部位の存在、2.カテスタチンのC末端側に相当する部位が切断されている可能性、の2点から、生体内では本年度の組換え発現で得られた短縮型のウシCHGAが作用を現していることが示唆され、今後の研究推進に重要な示唆を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、安定な組換えタンパク質(完全長型と短縮型の混合物および短縮型の2種類)を得ることができたので、今後はこのタンパク質の生理活性を解明する。措定されるターゲットは子宮の血管新生と組織リモデリングであり、血管新生はウシ脳血管内皮細胞の増殖を指標としたアッセイを行い、組織リモデリングはゼラチンザイモグラフィを行なって組織のゼラチナーゼ活性に及ぼす影響を検討する。 ウシ血管内皮細胞を用いたアッセイでは、培養した細胞に組換えウシCHGAタンパク質を添加して細胞増殖に及ぼす影響をAlamar Blueを用いて調べる。また、血管内皮細胞の培養上清をサンプルとして、ポリアクリルアミドゲルにゼラチンを添加した電気泳動ゲルを用いたゼラチンザイモグラフィを行なってマトリックスメタロプロテアーゼ活性を検出する。 2019年度に実施た研究で、完全長ウシCHGAを発現させても、Hisタグをターゲットにしたアフィニティ精製では完全長とC末端側が切断された短縮型の混合物が得られる事が明らかになった。2020年度はC末端にHisタグを付加したコンストラクトを作成して発現させて精製することで、完全長型のみの組換えタンパク質を取得して、短縮型と完全長型の生物活性の比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末(2020年2月-3月)に開催予定だった学術研究集会がコロナウイルス感染拡大を受けて軒並み中止となり、当初20万円計上していた旅費の執行額が¥38080となったために執行残額が発生した。次年度使用額の分は2020年度に物品費として執行する予定である。
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