研究課題/領域番号 |
19K06403
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
澁谷 泉 鳥取大学, 農学部, 教授 (50162649)
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研究分担者 |
保坂 善真 鳥取大学, 農学部, 教授 (00337023)
樋口 雅司 鳥取大学, 農学部, 講師 (70614791)
北村 直樹 鳥取大学, 農学部, 准教授 (80301951)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳弓下器官 / Angiotensin II / 細胞内カルシウム |
研究実績の概要 |
脳弓下器官(subfornical organ: 以下、SFO)は脳室周囲器官の一部であり、血液脳関門を欠く特性により、中枢神経系にありながら、循環血液中のホルモンなど末梢からの情報を感知する。SFOは心機能・血圧・体液量・体液浸透圧・摂食量など多くの重要な生理機能の調節に関して重要な役割を果たしていることが知られている。特に、循環機能・体液調節機能に関連して、末梢血中のホルモン、アンジオテンシンII(以下、AII)濃度の上昇に関しては、SFO破壊動物ではAII誘発性の飲水行動が生じないことから、AIIの受容・指令統合においてSFOが複数ある脳室周囲器官の中でも中心的な役割を果たすことは明白である。申請者は最近「単離SFOニューロンが1-100 nMのAIIでわずか30秒間刺激すると、持続的活性化を示す」ことを見いだした。本研究では、この発見を端緒に、AIIによるSFOの長期的機能調節の分子・細胞機構を解明し、その調節がSFOに固有の調節メカニズムなのか、あるいは他の脳室周囲器官あるいは関連の自律神経中枢にも共通の現象なのかを明らかとする計画である。 AIIによる長期的SFOニューロン活性化メカニズムを解析するために、細胞レベルで細胞生理学的な解析を行う。急性単離ニューロンにおいて蛍光色素を用いた細胞内Ca2+濃度イメージングを行い、AIIならびに、その他のSFOニューロンに興奮性の作用を有する伝達物資、ホルモンを適用し、その効果を詳細に解析する。加えてそれらの因子により、持続性Ca2+濃度上昇がどのような条件下で生じるのかについて解析を行う。さらに、持続性Ca2+濃度上昇の細胞内機構を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AII以外の細胞内Ca2+濃度上昇を引き起こす刺激として、50mM K+、グルタミン酸、カルバコール、アルギニンバゾプレシン、ATP、エンドセリンを用いた。最大反応を生じる濃度領域においてAII以外の刺激では持続性Ca2+濃度上昇は生じなかった。次に、AII 100nMの刺激持続時間を30秒、1分、3分、9分と変化させてCa2+濃度上昇を観察したところ、わずか30秒の刺激で持続性Ca2+濃度上昇が生じることが判明した。このCa2+濃度上昇は60分観察しても持続していた。また、グリア細胞の一部でAIIに反応する細胞がみられたが、グリア細胞では持続性のCa2+濃度上昇は生じなかった。AIIの濃度を1p, 10p, 100p, 1n, 10n, 100nMと変化させて反応を観察したところ、1nM以上では持続性が観察され、それ未満では一過性の上昇、あるいは周期的なCa2+上昇と下降の繰りかえし反応、いわゆるCa2+オシレーションの反応がみられた。 これらの結果から、一部のSFOニューロンにおいて観察されるAII誘発性の持続性Ca2+濃度上昇は、AII受容体に限局した反応であり、さらにニューロンのみに存在する機構であることが判明した。さらに、生理的な血漿AII濃度は1-100pMの範囲であると推定されることから、生体内において生理的濃度範囲を超えたAIIがSFOニューロンの持続性Ca2+濃度上昇を生じることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
持続性Ca2+応答を生じるAIIの受容体の特性、さらにはそれに引き続く細胞内シグナル伝達機構を明らかにする。加えて、AIIによる持続性Ca2+濃度上昇が抑制性伝達物質によって制御可能であるのか、あるとすればどのような細胞内機構で制御するのかを明らかにする。
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