研究課題/領域番号 |
19K06406
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小川 和重 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (60231221)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 常在マクロファージ / 組織定着機構 / 分極化 |
研究実績の概要 |
著者が開発した方法でマウス精巣間質細胞との共培養により増殖させた精巣常在マクロファージ(Mφ)を材料に,Flow cytometryにより(1)CD11b,CD115,CD169,CD206,MerTK,F4/80の発現を明らかにした。RT-PCRにより(2)ステロイドホルモン合成関連分子StAR,CYP11A1,HSD3B1の発現を明らかにした。同様な方法で増殖・分離させた肺,肝臓,脾臓の常在Mφにはこれら分子の明確な発現は認められなかった。(3)ライディッヒ細胞に強く発現する膜タンパクに対する抗体を用いてライディッヒ細胞の分離法を開発した。 マウス肝臓間質細胞との共培養により増殖させた肝常在Mφ(クッパー細胞)および培養類洞内皮細胞(EC)を材料に,RT-PCRにより(1) MφとECは数種類のEphA,ephrin-A,EphB,ephrin-Bを発現していること,(2) Mφはintegrin α4,α5,α6,αL,αM,αX,β1とβ2,ECはICAM-1とVCAM-1を発現していることを明らかにした。Stripe cell adhesion assayにより(3)MφのEphA,ephrin-A,EphB,ephrin-BシグナルはICAM-1吸着基質への接着増強に働くことを明らかにした。 Balb/cとC57BL/6マウス肺の間質細胞との共培養により増殖させた肺常在Mφを材料に Flow cytometryにより(1)両MφはF4/80,CD11b,CD11c,CD64,CD68,CD86,CD169,CD184,CD206,MertK陽性でSiglec-F陰性であること,(2)CD11c,CD68,CD169の発現パターンとF4/80,CD206の発現レベルは両Mφ間に差が認められることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所属機関が設備しているフローサイトメーターの頻繁な故障が,研究が遅れた主な原因の一つである。所属機関では2019年度末に新しいフローサイトメーターを導入したため,今後この問題は解消される。 Balb/cマウス(M2分極化が強く現れる系統)とC57BL/6マウス(M1分極化が強く現れる系統)を用いて肺常在MφのM1・M2分極特性を比較検討する実験は当初の想定よりも遅れている。M1およびM2刺激を加えた肺常在Mφを材料に各種サイトカインの発現レベルをフローサイトメトリーで比較・検討する実験を行っているが,研究室で確立された実験系ではないため,条件設定とプロトコルの確立に時間がかかっている。M1およびM2刺激剤の濃度と至適反応時間,サイトカイン分泌阻害薬の選択と至適濃度など,実験条件検討を行っている段階である。 精巣常在Mφの研究では,培養精巣Mφにプロゲステロン産生能が認められたこと,肝常在Mφの研究では,培養肝臓Mφと洞様毛細血管内皮細胞間の接着に関して,Eph/ephrinシグナルが接着分子(インテグリン/インテグリンリガンド)の活性化制御に関与することを示唆するデータが得られており,これらの研究は順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
著者が開発した方法は,常在Mφを同一の器官の間質細胞と共培養し,間質細胞と常在Mφを同時に増殖させてMφを培養系で増やす方法である。培養常在はin vivoの性状(ex vivoの常在Mφの性状)とは完全には一致せず,性状変化の度合いは継代培養を重ねると高くなることが明らかになった。「培養系では共培養細胞がMφニッチ(微小環境)の構成細胞になり,生体のニッチ構成細胞と大きく異なる場合は,性状変化が起こる」と考えた。この考えを基に「常在Mφの性状は共培養細胞の性状に依存する」と仮説を立てた。 今後,(1)常在Mφとニッチ構成細胞の接着機構(Eph/ephrinシグナルによるインテグリン/インテグリンリガンドの接着制御)の詳細を更に詳しく調べるとともに,(2)共培養細胞に依存して常在Mφの性状が変化するか解析を行う。定着器官に固有のMφニッチ細胞を共培養細胞として,増殖・分離した常在Mφを播種して共培養を行い, Mφニッチ細胞に依存した変化が起こるか検討する。器官の異なる常在MφとMφニッチ細胞の組み合わせを変えた実験も行いMφの性状を解析する。例えば,Leydig細胞の培養系を確立し,増殖させた肺常在MφをLeydig細胞と共培養することで新たに性ステロイドホルモン合成酵素の発現誘導が起こるか検討する。これらの実験結果を解析することで, Mφニッチの一端が明らかになると想定され,常在Mφの定着機構およびホーミング能を調べる上で重要な手掛かりが得られると考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究で使用するフローサイトメーター(所属機関の共通機器)が頻繁に故障したため,この機器を使用する実験の消耗品が予定よりも少額になったことが,次年度使用額が生じた主な理由である。この繰越残額を消耗品の購入に当て研究を進める予定である。
|