研究課題/領域番号 |
19K06406
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小川 和重 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (60231221)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 常在マクロファージ / 器官特異生 / 組織定着機構 |
研究実績の概要 |
著者が開発した方法で,マウス精巣間質細胞との共培養により増殖させた精巣常在マクロファージ(Mφ)について, 2019年度にはRT-PCRでプロゲステロンン合成酵素群の発現を明らかにした。2020年度はこの続きとして,精巣Mφの培養液にプロゲステロンが培養24時間後に約145 pg/mL,72時間後に約470 pg/mL含まれていることをELISAで実証した。従って,精巣Mφのプロゲステロン合成・分泌能が証明された。 マウス肝臓間質細胞との共培養で増殖させた肝常在Mφ(クッパー細胞)および培養類洞内皮細胞(EC)を材料に,2019年度はRT-PCRで(1)Mφは数種類のintegrin,ECは対応するintegrin ligandを発現していること,(2)MφとECは数種類のEphA,ephrin-A,EphB,ephrin-Bを発現し,MφのEph/ephrinの活性化はintegrin ligand吸着基質への接着増強に働くことを明らかにした。2020年度はこの続きとして,(1)ECは数種類のchemokineとMφの増殖・成長因子,Mφは対応するchemokine receptorと増殖・成長因子受容体を発現していること,(2)Mφ のEphA,ephrin-A,EphB,ephrin-Bの活性化はFAKのリン酸化誘導に働くことを明らかにした。 Balb/cおよびC57BL/6マウス肺の間質細胞との共培養により増殖させた肺間質Mφと肺胞洗浄液から回収した肺胞Mφを材料に,代表的な常在Mφの特異的な転写因子15種類について発現パターンをRT-PCRで比較検討したところ,肺間質Mφと肺胞Mφの発現パターンは類似しており,増殖させた肺間質Mφは肺胞Mφの代替として使用できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は新型コロナ感染拡大防止の観点から研究室閉鎖が1ヶ月以上続き,その後もコロナ感染状況の影響を受けて,本研究に従事する学生・大学院生の研究期間・時間が減少したことにより,研究の進捗が遅れた。肺常在Mφの研究は,主要な研究従事者となる大学院生1名の体調不良が続いているために,当初の想定よりも遅れている。 精巣常在Mφの研究ではプロゲステロン産生能を実証し,肝臓Mφの研究では培養肝臓Mφと洞様毛細血管内皮細胞間の接着に関して,Eph/ephrinと接着分子・接着関連分子の関連性を明らかにし,クッパー細胞の洞様毛細血管内皮細胞への定着機構の一端が解明できたため,これらの研究は,ほぼ順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
著者が開発した常在Mφの培養増殖方法は,定着器官の間質細胞と常在Mφの共培養による,間質細胞の増殖を伴う常在Mφの増殖培養法である。「定着器官の間質細胞はMφニッチ(微小環境)細胞」であり,「Mφの器官特異性はニッチ細胞の性状に依存する」と新たに仮説を定めた。この点を基に「共培養細胞の性状検討が不可欠ある」と考えている。 これまでに,Mφが性ステロイドを分泌する報告は当たらない。精巣Mφのニッチ細胞と想定できるLeydig細胞は,培養数日内にテストステロン合成能が消失するため,培養系で分化状態の維持が困難な細胞である。Mφニッチ細胞の観点から,精巣Mφとの共培養で増殖する間質細胞の性状解析を行うとともに,精巣Mφのプロゲステロン産生制御機構を検討する。また,卵巣の常在Mφを材料に性ステロイドホルモン合成能の有無について調べる研究を新たに加える。指定難病の肺蛋白症は肺胞Mφの機能異常が原因であるため,肺胞Mφ移植は治療法の1つと考えられている。増殖させた肺間質Mφを材料に,肺胞Mφ増殖・分化因子の培養液への添加,肺上皮細胞との共培養などを試み,肺胞Mφの性状にどれだけ近づくか調べてホーミング能に関連する事項を検討することで,移植材料になりうるか調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
1ヶ月以上の研究室閉鎖など新型コロナ感染の影響を受けて研究にやや遅れが生じ,また,主要な研究従事者である大学院生1名の長期の体調不良が続いたために肺間質Mφに関する研究に遅れが生じている。この結果,使用額の一部が次年度に持ち越しとなった。現時点で,大学院生の体調は回復しつつある。この繰越残額を消耗品の購入に当て,研究を進める予定である。
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