研究実績の概要 |
酪農現場においても薬剤耐性の観点から抗菌薬の慎重使用が求められている。近年欧州等では、乾乳期用乳房注入剤(乾乳軟膏)の使用を全頭全乳房への使用から、牛や乳房の状態に応じた選択的治療へと移行しつつある。本研究では、乾乳軟膏使用率と分娩後の乳房炎発症の関連性を調査し、乾乳軟膏の効果ならびに選択的乾乳期治療の可能性を検討した。 北海道東部の酪農家1,579戸、乳用牛142,361頭から、分娩頭数(全て)、分娩頭数(経産牛)、乾乳軟膏薬治のべ頭数及び分娩後の乳房炎発症のべ頭数を調査した。その結果から各酪農家の乾乳軟膏使用率並びに乳房炎発症率を算出した。また、乾乳軟膏使用率の結果から、酪農家を乾乳軟膏使用率0%(不使用群)、0~30%(低使用群)、30~70%(中使用群)及び70%以上(高使用群)に群分けし、各群間の乳房炎発生率を比較した。 分娩頭数(全て)は131,858頭であり、そのうち経産牛は92,353頭であった。乾乳軟膏薬治のべ頭数は76,014頭であり、乳房炎発症のべ頭数は67,755頭であった。乾乳軟膏不使用群の酪農家数は181戸、低使用群は65戸、中使用群は150戸、高使用群は1,183戸であった。各群の平均乳房炎発症率は、それぞれ46.4%、51.4%、55.1%、56.1%であり、不使用群が最も低値となった。 乾乳軟膏の利用が分娩後の乳房炎予防に結び付くとは限らないことが示された。また、個体状態や飼養衛生管理が良好であれば、乾乳時に必ずしも乾乳軟膏は必要でないことが推察された。現在行われている全頭全乳房への乾乳期治療は、感染乳房を対象とした選択的治療へと見直す時期に来ていると考えられた。
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