研究課題/領域番号 |
19K06416
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
白藤 梨可 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 助教 (00549909)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マダニ / 原虫 / バベシア / 介卵伝播 / 卵形成 / 卵黄タンパク質前駆体 / 卵黄タンパク質前駆体受容体 |
研究実績の概要 |
(1)バベシアが「いつ」「どの」卵母細胞に感染するかを明らかにするためのツールとして、卵母細胞の発育ステージ選抜法を確立することを試みた。まず、ウサギで吸血させたフタトゲチマダニ(単為生殖系)雌ダニの卵巣を回収し、組織切片を作製した。以前確立した発育ステージ分類法に従い、卵母細胞をステージI~Vに分類し、さらに、各卵母細胞における卵黄タンパク質前駆体(Vg)受容体(VgR)mRNAの発現およびVgRタンパク質の局在を解析した。その結果、ステージIIIまでの卵母細胞においてVgR mRNAが検出され、また、ステージI~IIIの細胞質内およびステージIV、Vの細胞質辺縁にVgRが検出された。さらに、飽血後4日目の卵巣を観察したところ、対照群ではステージI~Vの卵母細胞が存在したのに対し、VgR遺伝子発現抑制雌ダニではステージIIIまでの卵母細胞が存在し、ステージIV、Vは存在しなかった。以上のことから、卵母細胞は、マダニの吸血初期である急速吸血期にステージIからII、飽血(吸血完了)後にステージIIからIIIへと発育し、次いで、VgRを介したVg取り込みが活発化することによりステージIIIからIVへと発育することが明らかになった。これらの知見を踏まえ、卵母細胞の全発育ステージが存在する飽血後4日目に卵巣を回収し、卵母細胞の分離を試みた。 (2)マダニの吸血により中腸(消化管)内腔に到達したバベシアは、中腸上皮細胞に侵入し、分裂増殖後、「キネート」と呼ばれる形態に分化する。キネートは中腸から体液中へ移動し、卵巣などの細胞に感染する。卵母細胞におけるバベシア感染の評価法確立を目的として、Babesia ovata 感染ウシ赤血球を人工吸血法により雌ダニに吸血させ、飽血後~産卵開始日において、経日的に体液を回収した。リアルタイムPCR法により、キネートが体液中に多く存在するタイミングを検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、マダニ卵母細胞選抜法の確立とBabesia ovata(キネート)精製法の確立を試みた。マダニの卵母細胞は吸血後にステージⅠからⅤへと発育するが、その発育は非同期的であり、卵巣内に存在する全卵母細胞の発育ステージには統一性が無い。したがって、各ステージの卵母細胞を効率良く回収するためのタイミングを把握する必要があり、今年度はその目標を達成することができた。回収した各卵母細胞サンプルについては、当初の計画に従い2年目以降の研究で使用する。また、人工吸血法により作出したB. ovata感染フタトゲチマダニにおける感染率(B. ovata検出率)について既に明らかにされているが、各マダニにおける原虫数(B. ovata感染の程度)については不明である。そこで、リアルタイムPCR法により、各マダニ体液中の原虫を定量的に評価した。以上の研究に関連し、論文発表ならびに学会発表を行い、成果の公表に努めた。今年度に得た知見ならびに確立した研究手法は、来年度以降の研究推進に繋がる重要な成果であり、おおむね順調に進展したと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度得られた研究成果を基に以下の内容について実施し、加えて、令和2年度以降の計画に沿った研究を遂行する。 1.卵形成関連分子とキネートの分子間相互作用解析:B. ovata(キネート)を多く含む画分を用い、マダニ卵形成関連分子との結合性を検証し、結合タンパク質を同定する。 2.卵母細胞におけるキネート感染能評価試験:上記1.の結果に基づき、フタトゲチマダニ雌ダニの卵巣(卵母細胞)のin vitro培養系を用い、B. ovata(キネート)感染能を細胞・分子レベルで評価する。 3.得られた研究成果について、学術誌、国内・国際学会にて発表し、積極的に発信する。
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