研究課題/領域番号 |
19K06418
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
寸田 祐嗣 鳥取大学, 農学部, 准教授 (20451403)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動物白血病 / 猫白血病ウイルス / 病原性 / 獣医病理学 |
研究実績の概要 |
本研究は動物の白血病ウイルスの新たな病原性を明らかにすることを目的として実施するものであり、具体的には猫白血病ウイルス(Feline leukemia virus, 以下FeLV)に注目して、猫の口吻部組織の病理組織学的解析を実施した。過去の研究により、口吻部の洞毛が波状変化を示す猫は高確率にFeLVに感染していること、そのような特徴的な外貌変化はFeLV感染以外の要因に起因する可能性は低いこと、が報告されていた。 本研究では血液検査にてFeLV陽性であった猫11症例、陰性であった猫11症例、未検査猫10症例の口吻部組織を病理組織学的、免疫組織化学的に検索した。その結果、血中FeLV陽性猫の口吻部の上皮系細胞には高率にFeLV抗原p27が検出されることを見出した。具体的には、皮膚(表皮)、粘膜上皮、毛包上皮、汗腺・脂腺上皮にウイルス抗原陽性シグナルが検出され、これらの細胞が唾液など体液中へのウイルス排出源になっていると思われた。しかし、洞部位には明確な細胞死を伴う組織傷害あるいは炎症性細胞浸潤は乏しかった。よって、FeLVは細胞死や炎症を誘導することなく、上皮系細胞の機能変化を誘導していることが示唆された。特に、特徴的な洞毛の波状変化の原因を明らかにするために、p27遺伝子をクローニングして猫由来上皮系株化細胞に発現させることによって、細胞の性状変化、ケラチン産生に与える影響を観察する準備を進めている。また、未検査猫2症例の皮膚、粘膜、汗腺上皮、脂腺上皮にもFeLV抗原p27を検出できたため、口吻部の組織はFeLV感染状況を調べるための検査部位としても有用である可能性が明らかとなった。さらに骨格筋の一部にもウイルス抗原を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3年間の実施計画で行う予定であり、2019年度(初年度)は症例検体数を充実させて、口吻部の組織解析を行う予定であった。上記した通り合計約30件の検体を確保して、検査することができ、一定の成果を得られたため、おおむね順調に進展していると自己評価した。 当初の予定以上の成果として、一部の症例(FeLV陽性猫の45%)の口吻部の骨格筋線維の核周囲にもp27シグナルが検出された点が挙げられる。動物白血病の骨格筋への感染については一般的には認識されていない所見であるが、骨格筋にはFeLV-Aの受容体のひとつであるチアミン輸送タンパク1 feTHTR1が存在する報告がある(J Virol. 2013 Mar;87(5):2412-9.;J Virol. 2006 Apr;80(7):3378-85.)。動物の白血病ウイルスの新たな病原性を調べるにあたり、実症例から新たな感染標的細胞の候補を見出した意義は大きく、その点においては当初の計画以上に進展した部分と考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでと同様に本研究室にて検査可能である症例を集めて、検体数の充実をはかる。並行して、猫白血病ウイルスFeLVの感染に伴う上皮系細胞の機能異常を調べるためのin vitro実験を行う予定であり、既に予備的解析を進めている。特に注目する点はFeLV感染によってケラチン産生がどのように変化するかであり、特徴的な洞毛の変化の原因を明らかにしていく。加えて、初年度の研究成果から、FeLVの感染標的には全身諸臓器の様々な細胞が含まれる可能性が示唆された。よって、検査可能な症例については、これまでの常識にとらわれずに、全身諸臓器におけるウイルス感染の可能性について検索を進める予定である。本原因ウイルスはレトロウイルスであり、プロウイルスとなり宿主ゲノム内に取り込まれる可能性、内因性レトロウイルスの緩衝の可能性、が考えられるため、注意して研究を進める。予定通りに研究が進展しない場合、特に上皮系細胞への病原性が不明確であることも考えられる。その場合には、洞毛の特徴である触知、触覚機能に与える影響、すなわち神経系細胞への病原性に視点を切り替えて、臨機応変に研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初参加予定であった学会が延期・中止になったこと、一部の研究計画に軽微な変更が生じたこと、に伴い当初の使用額から軽微な変更が生じ、上記した金額分を次年度に繰り越した。変更内容は軽微なものであり、研究課題の進展に対して問題となることはない。 繰り越した予算は、次年度に請求した助成金と合わせて、本研究課題の進捗のために適切に使用する予定である。具体的には、病理組織学的解析ならびに分子生物学的解析に関わる一般消耗物品の購入、成果発表や情報収集に関わる学会参加旅費に充てる。
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