研究実績の概要 |
本研究は動物の白血病ウイルスの新たな病原性を明らかにすることを目的として実施したものであり、猫白血病ウイルス(Feline leukemia virus, 以下 FeLV)に注目した。これまでの研究により、口吻部の洞毛(いわゆるヒゲ)が波状に変化した猫は、高確率に FeLV に感染していたことより、本研究においては、猫の口吻部の組織に注目して研究を実施した。 最終年度には、これまでの解析をさらに進めるとともに、得られた成績をまとめて、英語論文を作成し投稿した。成績の要点としては、臨床検査で得られた14項目(例:猫免疫不全ウイルス感染の有無、避妊去勢状況、体重、年齢、血液検査項目数点)について多変量解析を実施したところ、FeLV感染と有意な関連がある要因として、洞毛に波状変化が生じること、および赤血球容積(PCV)の減少が挙げられた。PCVの変化は、FeLVによる貧血を反映したものであるが、洞毛の変化はこれまでに報告がない、新規性のある知見であることが再確認された。加えて、組織検索が可能であった合計36症例の口吻部組織の成績を最終整理したところ、FeLV陽性症例にはウイルスコアタンパク質p27が最も高頻度に検出され、それらは洞毛上皮細胞を含む様々な上皮系細胞に局在すると結論づけた。次いで、検出頻度は異なるものの、gp70、p15E(それぞれウイルスエンベロープタンパク質)も同様に観察されることを見出した。これらの成果を英語論文にまとめ、国際学術誌 Journal of Feline Medicine and Surgery誌に投稿したが、不採択となった。そのため、推敲を重ねて、他誌への投稿を準備している。また、上皮細胞のケラチン産生に注目した解析についても、前年度から引き続いて検討したが、ウイルスタンパク質の発現による影響について、安定した有意な変化は見出せなかった。
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