研究課題/領域番号 |
19K06426
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
萩原 克郎 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (50295896)
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研究分担者 |
安藤 達哉 酪農学園大学, 獣医学群, 准教授 (00826993)
岡本 実 酪農学園大学, 獣医学群, 准教授 (60372877)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ボルナウイルス / ウシ / 周産期 / キスぺプチン |
研究実績の概要 |
ボルナウイルス(BoDV-1)は、乳牛の不受胎と関係することが報告され経済動物の生産性に潜在的な損失をもたらすと推測される。このような乳牛における現象は、本ウイルスに持続感染した実験動物モデルにおいても確認され、メスでは性周期の延長を伴う繁殖障害をおこす。本研究では、BoDV-1感染により性周期および妊娠維持に影響を及ぼしているのか、臨床的なアプローチと分子生物学的アプローチを合わせて、BoDV-1感染による繁殖性の影響を調べている。本研究で注目しているポイントは、性周期異常がウイルス感染により起こる点である。すでに、このウイルスは視床下部にも感染していることが明らかになっていることから、持続感染時に視床下部から下垂体へのシグナル伝達系に異常が起きている可能性について仮説を立てた。即ち、視床下部から下垂体へはキスぺプチンが重要な役割を担っており、その分子のパルス的下垂体への刺激が下垂体へのGnRH産生に重要な役割を果たす。本年度は、ウシ、ラット、マウス、ウシの視床組織からのキスぺプチンの発現定量系の検討と持続感染動物の脳組織からのその遺伝子発現を検討した。その結果、持続感染動物では視床においてキスぺプチンの発現が正常個体よりも増加していた。今回得られた結果から、BoDV-1感染により視床におけるキスペプチン遺伝子発現増加したことにより、その下流へのホルモン動態に影響する可能性が示唆された。この知見については、2019年9月の獣医学会学術集会にて知見を公表した。ウシについては、臨床的繁殖状況を超音波画像診断装置を用いて観察条件の設定を行い、卵巣・子宮・胎子の所見観察の条件を確定した。さらに、病理組織学的に感染個体におけるウイルスとキスペプチンの解析を検証し、次年度へ向けた細胞レベルの解析を進めていく予定である。今回得られた知見の一部は、専門学術誌へ投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進捗については、おおむね予定通りに進んでいる。 サンプルについては、マウス・ラットの持続感染サンプルを予定通り得ることができた。また、ウシについては陽性個体を集めることが難しい点があるが、牧場単位で血清疫学調査を実施した事により、数頭の対象牛を共同研究者と共に入手できた。次年度以降も同様に取り進める予定である。 検査手法において、遺伝子発現解析は、ほぼ確立され実験実施に支障はない。検査条件の検討やサンプル調整については、本年度でほぼ検証できた。一方で、ウシのホルモン解析について適切な測定系とサンプル検証について事前の検討が必要となってくることから、次年度に向けて検討を進める予定である。 本研究は、フィールドの知見も集約しているので、COVID-19による移動制約が研究サンプルの収集にどれだけ影響するのか未知数である。その場合は、実験動物や細胞レベルの研究により知見を集積し、状況判断していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
新生子マウスにBoDV-1を感染させて持続感染マウスモデルを作出し、発育過程に及ぼすBoDV-1の影響を調べる。具体的には、性周期の確認と繁殖関連ホルモン分泌の検討さらに、視床と下垂体の神経由来ペプチド等の発現を遺伝子レベルと蛋白レベルで比較解析する(萩原・岡本担当)。 牛については、BoDV-1感染と非感染個体における繁殖生理を臨床的にモニタリングし、超音波診断画像、ホルモン動態等の調査から器質的な影響が確認できるか否か臨床的に調べると共に、ホルモン剤に対する反応性を調べ、ウイルス持続感染によるホルモンレセプターや刺激伝達系への影響を調べる事を予定している(安藤担当)。 前年同様に、感染個体の剖検サンプルを用いた病理学的解析ならびに神経ペプチドおよびそれらレセプター遺伝子発現解析する(安藤・岡本・萩原担当)。 ホルモン定量については、既存の検査系を用いて測定系の検証を実施し、繁殖生理学的変化とウイルス持続感染との関係を比較検討する。 細胞レベルにおいては、視床下部由来細胞や下垂体由来細胞を用いてBoDV-1感染に伴うキスぺプチンやその受容体発現への影響を調べる。 以上が本年度の研究推進方策である。
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