研究計画に示した実験の結果、犬の骨髄単核球をGM-CSFおよびIL-6存在下で培養し、さらに株化腫瘍細胞培養上清を添加することにより、犬の骨髄単核球から効率的にCD11b+Gr-1+細胞を分化誘導できた。また、培養した細胞からフローサイトメーターを用いたソーティングによりCD11b+Gr-1+細胞を精製し、その機能を解析したところ、CD11b+Gr-1+細胞はMDSCに特徴的な機能であるArginase活性、NOおよびROSといった免疫抑制因子を有していた。このことから、犬の骨髄細胞からGM-CSFおよびIL-6を用いてMDSCを効率的に分化誘導できることが明らかとなった。さらに、骨髄細胞から分化誘導したMDSCは、添加する株化腫瘍細胞培養上清の種類により、その免疫抑制機能に相違が認められた。このことは、種々の株化腫瘍細胞により培養上清中に分泌される液性因子が異なっているためと考えられた。これらの結果は、担がん生体において誘導されるMDSCががん種により異なる免疫抑制機構を有していることと類似しており、本研究により確立した犬の骨髄細胞を用いたMDSCの分化誘導法が今後の犬の悪性腫瘍に対する新規治療候補薬の探索に有用であると考えられた。新型コロナウイルス感染症の流行により当初の予定よりも計画が遅れてしまったが、現在、本研究で確立した方法により、犬の骨髄細胞と種々の株化腫瘍細胞を用いてMDSCを分化誘導し、キナーゼ阻害剤によるMDSCのT細胞増殖抑制への影響を検討している。
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