流行性出血病ウイルス(Epizootic hemorrhagic disease virus:EHDV)は、ウシやシカに感染し、発症例では発熱、嚥下障害、誤嚥性肺炎等を呈する。わが国では、EHDV血清型2の一種であるイバラキウイルスが1959年にウシから分離されて以降、上記症状を主徴とするウシのイバラキ病が発生しており、近年は北米や中東、アフリカにおけるウシやシカの流行性出血病の発生も相次いでいる。しかし、EHDVの感受性宿主における発病機序は明らかになっていない。そこで本研究では、EHDVの病原性規定部位を探索するため、EHDV国内分離株を疾病発生の有無によって「病原性株」と「非病原性株」に分類し、①次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析による遺伝学的性状の比較、②リバースジェネティクス(RG)系構築とゲノム分節の入れ替え、③各種培養細胞における増殖性の比較解析、以上3つの項目を実施する。 令和2年度は、上記①の遺伝子解析を前年度に続いて実施した。国内で1987年~2013年に分離されたEHDV計10株について、コード領域全長の塩基配列を決定し、うち6株は全ゲノムの塩基配列を決定した。その後、「病原性株」と「非病原性株」について、コード領域上の相違をアミノ酸レベルで特定したところ、Seg-6以外のすべてのゲノム分節に1か所以上の相違を認めた。また、上記②の実験を行うため、EHDVの各ゲノム分節のcDNA全長および一部のゲノム分節のコード領域全長のクローニングを行った。加えて、RGによりEHDV各株およびゲノム分節を入れ替えた株を作製するため、大臣確認実験の申請を行った。
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