研究課題/領域番号 |
19K06437
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深澤 太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (10565774)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 再生 / アフリカツメガエル / interleukin-11 |
研究実績の概要 |
申請者らは、ツメガエル幼生尾再生において再生組織にて発現するインターロイキン11(il-11)に筋肉・脊索・脊髄の未分化細胞を誘導する機能があることを見出した。再生時における複数組織の未分化細胞の誘導がたった一つの因子に因ることを示す結果であり、これより「各組織の組織幹細胞には組織の別を問わない共通の活性化機構がある」という仮説を立てている。本研究では、(1)尾再生時においてil-11ノックダウンにより発現低下する遺伝子群より因子X25789(仮称)を同定し、このX25789ノックダウン個体も尾再生能の低下がみられることから、前述の機構にX25789が関与すると考えている。加えて、X25789の発現はある特定の免疫細胞クラスタ(Leu-Aと仮称)に限局することから、このLeu-Aが前述の機構に関与すると考え、解析を進めている。今年度は、Leu-Aの発生に必要であることが知られている因子のノックダウン個体を作成しその尾再生能を検討した結果、X25789ノックダウン個体と同様に尾再生能の低下が見られた。これより、尾再生においてはX25789を発現するLeu-Aが必要な機能を果たしていると考えている。(2)ツメガエルでinterleukin-11 receptor alpha (il11ra.L)とアノテーションされていた遺伝子について、これがツメガエルIL-11を受容することを実験的に示した。 (3)ツメガエル幼生尾再生「不応期」に再生能を低下させる因子としてfactor X(仮称)を同定した。また、factor Xは不応期にのみ再生を阻害する応答をおこすことを見出した。(4) CRISPR/cas9法を用いたツメガエル受精卵へのコンストラクト顕微注入でのノックダウン・ノックイン効率が、顕微注入後の低温処理で劇的に向上することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)マウスでLeu-Aの発生に必要であることが知られている因子のツメガエルホモログのノックダウン個体を作成しその尾再生能を検討した結果、X25789ノックダウン個体と同様に尾再生能の低下が再現性を伴って観察された。尾再生においてはX25789を発現するLeu-Aが必要な機能を果たしていると考えている。(2)ツメガエル培養細胞株XTC-YFにリコンビナントツメガエルIL-11を投与するとStat3のリン酸化と核移行が観察された。次にil11ra.LノックアウトXTC-YFを樹立し同様の実験を行ったところStat3のリン酸化と核移行は検出されなくなった。これよりツメガエルil11ra.LはツメガエルIL-11を受容することが示された。またil11ra.Lの切片in situ hybridizationでは幼生個体内・再生中の尾のほぼ全ての組織中に高頻度で染色が見られた。(3)factor Xノックダウン個体は再生不応期の再生能が有意に回復した。この表現型は尾切断後にfactor Xを強制発現させると相殺されることから、factor Xが再生不応期に再生能を低下させている因子であることが示された。一方でfactor Xの前期可能期における強制発現は再生能を低下させないことも見出され、factor Xによる再生能低下は不応期に特異なものであり、前期可能期から不応期にかけて出現する免疫細胞が再生能低下に関わることが考えられる。(4)ツメガエル受精卵へのCRISPR/cas9法因子の顕微注入によるゲノム編集(ノックダウン・ノックイン)で作出される個体は編集の起きた細胞と起きなかった細胞のモザイク(キメラ)となるが、顕微注入後の胚を一定時間低温に置くことでキメリズムが有意に上昇することを示した。なお実験の一部は課題番号20K21517(代表:久保健雄)と共同で実施した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度で最終年度であり、既存の結果については論文化を行う。幼生尾再生における幹細胞活性化様式の解析のため、幼生尾再生芽より幹細胞分画をサイドポピュレーション法により濃縮し、この分画でのsingle cell RNA seqを実施する。得られた細胞ごとの遺伝子発現プロファイルを用い、発現様式の似通った細胞同士をつなぐ経路を作成する。各細胞を繋ぐ経路をたどると、これは細胞の分化系列をたどったものになると想定される。この疑似系列(pseudotime)推定法を用い、各組織における幹細胞の同定と、静止状態・活性化状態、未分化維持状態・細胞運命決定状態など各状態の遷移に伴う発現遺伝子の変化を追跡する。これにより、各組織幹細胞の活性化様式の直截的な記述や、活性化に関わる因子の同定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度始めに新型コロナ感染症対策のため所属研究機関において活動制限が設けられたのに伴い一部の実験が次年度に持ち越されているため。実験自体は次年度に予定通り行う。
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