研究課題/領域番号 |
19K06438
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小林 功 金沢大学, 生命理工学系, 助教 (30774757)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / ゼブラフィッシュ / インテグリン / 血管芽細胞 / 発生 |
研究実績の概要 |
発生過程において造血幹細胞は血管芽細胞に由来し、造血幹細胞へと特化した血管芽細胞は背側大動脈の腹側壁より出芽すると、造血組織へと移行し、全ての種類の血球を生涯に亘って供給し続ける。しかしながら、血管芽細胞から造血幹細胞への運命決定に関する分子メカニズムには不明な点が多い。先行研究により、ゼブラフィッシュ胚において、血管芽細胞に発現する細胞接着分子インテグリンのシグナルをドミナントネガティブ系統を用いて阻害したところ、背側大動脈から出芽する造血幹細胞の数が大幅に減少することが示されている。さらに膜タンパク質であるLrrc15はその発現が血管芽細胞に限局しており、また、lrrc15の発現を阻害した場合においてもインテグリン阻害胚とほぼ同様の表現型が見られていた。 そこで本研究では、始めに血管芽細胞におけるインテグリンシグナルを阻害した胚において、lrrc15の発現を調べた。コントロールの胚ではlrrc15は血管芽細胞に特異的に発現していたが、インテグリンシグナル阻害胚では血管芽細胞におけるlrrc15の発現が著しく減少していた。さらに、インテグリンシグナル阻害胚においてlrrc15 mRNAを強制発現したところ、背側大動脈の腹側壁に出現する造血幹細胞の数が正常に近いレベルにまで回復した。以上のことから、血管芽細胞においてインテグリンはlrrc15の発現を制御することによって造血幹細胞の発生を促進しているものと考えられた。これらの研究成果を含んだ論文はDevelopment誌に受理されている(Kobayashi et al., Development. 2020)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、インテグリンシグナルが造血幹細胞の発生をどのように制御するかについての分子メカニズムの解明を当面の目標として開始した。本研究課題の中で最も困難な点は、インテグリンシグナルの下流でどのような分子が造血幹細胞の発生制御に関わるのかを探索する点にあった。これまでの先行研究を元に、発現が造血幹細胞の前駆体である血管芽細胞に限局し、変異体の表現型がインテグリンシグナル阻害胚と類似するという点で、Lrrc15という膜タンパクが候補分子として浮上していた。しかし、インテグリンとlrrc15の関連を結びつける文献はなく、これら2つは独立した制御機構による可能性も否定はできなかった。本研究で、インテグリンシグナルを阻害した場合に、血管芽細胞においてlrrc15の発現が低下し、さらにこれらの胚にlrrc15を強制発現すると造血幹細胞の発生が回復したことから、Lrrc15はインテグリンの制御下で造血幹細胞の発生制御を担う分子であることが明らかとなった。このように、インテグリンの下流分子の同定を既に達成し、最も重要な研究課題の1つを既にクリアしたといえるため、概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、造血幹細胞の運命決定の分子メカニズムの一端を解明することが最終目標であるため、今回インテグリンの下流でLrrc15が機能していることを同定できた点は目標の達成に一歩前進したと言える。しかしながらLrrc15という膜タンパクは機能がほとんど明らかになっておらず、実際にLrrc15がどのように造血幹細胞の発生を制御するのかについては全く明らかになっていない。そこで今後は造血幹細胞の発生過程におけるLrrc15の役割を調べていく。具体的には、lrrc15変異体における血管芽細胞において、造血幹細胞の発生に不可欠な分子の発現に異常がないかどうかを調べる。またLrrc15はその分子構造上、細胞接着分子として機能する可能性が示唆されているため、lrrc15変異体において、血管芽細胞の周囲組織との接着や細胞移動などについてライブイメージング解析などを駆使して調べ、いつ、どこで、どのような異常を示すのかを詳細に調べていく。これらの解析を通して造血幹細胞が発生する過程で不可欠な細胞間シグナル伝達の解明にも繋げていく。
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