発生過程において造血幹細胞は血管内皮細胞との共通前駆細胞である血管芽細胞より形成されることが知られている。しかしながら、血管芽細胞から造血幹細胞への運命決定に関わる詳しい分子機構については不明な点が多い。報告者はこれまでにインテグリンによるシグナルが造血幹細胞の形成に不可欠であることをゼブラフィッシュを用いて見出していた。さらに、インテグリンのシグナルは血管芽細胞において細胞外マトリックスとの接着を介してシグナルを伝達し、造血幹細胞の形成に不可欠なLrrc15という膜タンパクの発現を調整することを明らかにしていた。本研究ではインテグリンおよびLrrc15によるシグナルがどのように造血幹細胞の形成を制御するかについてゼブラフィッシュ胚を用いて検討を行った。 Lrrc15の変異ゼブラフィッシュと正常なゼブラフィッシュの血管芽細胞を用いてRNA-seq解析を行ったところ、変異体の血管芽細胞ではsmall GTPaseに属するrhohの発現が顕著に減少していた。ゼブラフィッシュ胚においてRhoHの機能を阻害したところ、胚における造血幹細胞の数が減少した。一方、lrrc15変異胚においてrhohを強制発現すると造血幹細胞の形成が正常なレベルに回復した。さらに最近、RhoHはZap70と相互作用し、Zap70の機能を抑制することによって血管芽細胞から造血幹細胞へ誘導している可能性が見出された。これらのことからインテグリンはLrrc15を介してRhoHを制御し、RhoHはZap70を抑制することで造血幹細胞の形成を促進しているものと考えられた。
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