哺乳類の精巣内では、精子の元となる精原細胞が自己複製をしつつ、減数分裂を起こす精母細胞へと分化することで、精子生産が継続的に維持される。この調節は、精巣の恒常性の維持や、次世代へ子孫を残すために必要不可欠であり、本研究で得られる成果により、精原細胞の体外移植技術の改良や、それに伴う遺伝子資源の凍結保存や家畜生産への貢献、ヒト不妊症の理解や治療法開発など、社会への幅広い波及効果が期待される。 現在、精原細胞がどのように減数分裂能を獲得するか、分子メカニズムは不明である。本研究ではマウスを用い、減数分裂能に必要な機能遺伝子の同定やメカニズム解明を目指す。 具体的には、減数分裂開始因子への応答性の変化や発現する遺伝子群の解析や、発生工学技術を駆使して遺伝子改変マウスを作製し、減数分裂能に必要な機能遺伝子の同定とメカニズム解明を目的とした。 これまでに、(オンラインのデータベースや文献を参考としながら)分化型の精原細胞で高発現する遺伝子群に着目し、ゲノム編集技術である CRISPR/Cas9法を用いて3系統の遺伝子欠損(KO)マウス作製および解析を行った。作製した3系統のヘテロ接合体(+/-)KOマウス(F0世代)を交配により、各系統においてF2世代のホモ接合体(-/-)KOマウスを得た。各系統のオスのホモKOマウスを、それぞれメスの野生型(WT)マウスと交配テストを行ったところ、うち1系統のKOマウスで妊性の低下を示した。 本年度は、このKOマウスの妊性低下について詳細を解析したところ、加齢により妊性の低下が進行し、精巣内では減数分裂以降の生殖細胞が顕著に枯渇することを明らかにした。また、このKOマウスでは、従来の加齢(老化)で見られる精巣内の恒常性の破綻が、より早期に起こることが初めて明らかになった。
|