研究実績の概要 |
アルツハイマー病の脳内では、細胞外でアミロイドβ(Aβ)の蓄積が認められる。Aβはモノマーの状態から複数が結合してオリゴマー、フィブリル・凝集体となることで細胞障害性を示すと考えられている。しかし、実際に脳内に存在するAβ濃度は実験的に直接神経細胞を傷害する濃度よりも低いことから、別の機構が疾患発症に関与すると考えられた。その機構として、Aβ凝集体はアストロサイトとミクログリアを活性化させることが知られており、異常な活性化はアルツハイマー病の原因となり得る。 一方、蛋白質の架橋結合形成酵素であるトランスグルタミナーゼ(TGs)はヒトで8種類が知られており、脳にもTG1,TG2,TG3,血液凝固第13因子(FXIIIa)が発現していることが報告されている。中でもTG2は多機能酵素であり、炎症や神経疾患への関与が知られている。 本研究において、アストロサイトとミクログリアにもTG2が発現しており炎症反応に関与していることを報告した。また、アストロサイトにはTG1,TG3,FXIIIaも発現しており、TG1,TG2,FXIIIaは細胞外への放出も認められた。アストロサイトに発現するTG2は、細胞の活性化時に発現と酵素活性が上昇し、細胞内で一酸化窒素(NO)産生に関与するだけでなく、放出されて細胞外でのAβ凝集を促進した。ミクログリアに発現するTG2は、細胞活性化時に発現が上昇し、NO産生に関与するとともに貪食能にも寄与していた。また、ミクログリアに発現するTG2蛋白はMFG-E8という分子を介して細胞外のAβと直接結合することによってAβを取り込み、Aβを取り込んだミクログリアは活性化状態を示した。したがって、グリア細胞に発現するTG2を制御することによって、Aβ凝集およびグリア細胞活性化による神経細胞障害を制御できる可能性がある。他のTGsの役割について今後さらに検討が必要である。
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